※平成20年は、山車の状況をできるだけ写真を使わず、文章だけで伝えられるよう努力しました。


盛岡八幡宮例大祭盛岡秋祭り 山車と音頭の記録



源氏車の は組の纏 三振り七振り 七ツ瀧

武者のお手本  

南部重信(は 組)

五代将軍 綱吉公を 推挙重信 名をあげる
 仙北町は組は平成7年以降、盛岡城主南部家の歴代藩主の山車に取り組んでいる。今回は29代の重信で、盛岡山車初登場。金地に金の威しをかけた眩いほどに煌びやかな鎧を纏い、栗毛の馬にまたがった武将の姿です。兜の緒は太く、前立てには蜻蛉があしらわれています。遠望すると非常に安定した騎馬武者ですが、近くに寄ると、ぐっと前に出るような躍動感がありました。松は3段、人形の兜は立ち岩を越える位置に付いていて、すべての飾りがバランスよく決められています。金の鎧に微妙に松葉が入り込むあたり、緻密な計算で見事な彩色美を演出しました。見返しは相撲取りの立ち姿、今までに無い斬新な演し物です。裸姿なので通常の盛岡山車人形の風貌とは違いますが、唐獅子の刺繍が入った化粧回しを締めたことで豪華に、山車人形らしく、力士らしく見せました。天井や背景には芯を淡く染めた桜を飾り、傍らに源氏車を戴いたは組の纏を立てています。大変に目を引く、面白い見返しでした。行列の旦那衆・揃いの装束・小太鼓の手の上がりなど、どれをとっても盛岡山車らしい風格と見所があり、行列全体としても非常に完成度の高い山車でありました。

流れ切り替え 杉土手築き 水の盛岡 守りきる
纏振りたる 豪気の力士 あれはは組の 七ツ瀧


 

歌舞伎のお手本  

稲荷に願掛け 神狐の槌で 生まれし名刀 世に残す

三条小鍛治(本 組)
 小鍛冶宗近はあまりに腕の良い刀鍛冶なので、同じぐらい上手に相槌を打てる相棒がいない。そこで稲荷様を勧請して相槌を打ってもらい、見事な御剣を天皇に献上したという話。白ベースに金糸で刺繍した豪華な衣装の稲荷の化身、白の舎熊に銀の烏帽子をかぶっていて、烏帽子の頭に狐の姿が見えます。顔には青の隈取、なかなか出てこない複雑なモチーフを完璧に塗り上げています。大槌を諸手にかざす格好で、槌の黒地の打つ部分だけに、銀の光沢を出しました。小鍛冶は紫の袱紗で包んだ刀身を天にかざし、袂を引いて見得を切る本組伝統の型。薄紅のさした白面に烏帽子をかぶり、青い裃の片袖を抜いています。背景は板間に注連縄、桜は縁を淡く染めたものを飾り、夜間は松の豆電球、稲荷様の足元から上に向かって青い電飾をかけました。構図のバランスが非常によく、道具立て一つ一つが実にしっかりとしていて、衣装も歌舞伎の着物をそのまま大人形のために仕立てたような豪華さが感じられました。盛岡らしい気品漂う歌舞伎の山車です。見返しは浅黄色の背景に芯を淡く染めた玉桜をかけて、鳥追い女が白衣に包んだ三味線を抱え、笠を直す姿を飾っています。

勅旨賜り 稲荷へ祈願 知恵をめぐらし 小鍛治伝
刀工宗近 稲荷の神と 名剣小狐 鍛え抜く


 

今年の目玉  

白藤彦七郎(城西組)

敵の追撃 猛進白馬 豪力投快 彦七郎

 本能寺の変の報を聞いて大返しで京に戻る秀吉を、明智光秀の家来が馬を放り投げて阻んだという盛岡山車初奉納の演題。武者は思い切って小さめに作り、舞台一杯に投げられた白馬がひっくり返っている奇抜な構想でした。白馬は頭を下に、腹を山車の正面にさらしてダイナミックに宙を舞っています。後ろ足の蹄が山車の天辺に至り、充分な存在感を見せました。白目を剥いて舌をべろりと出しているのも、投げられた馬ならでは。武者の髪の毛や帯、馬の轡装束にいたるまで風にひらめいて流れがついており、大変躍動感があります。武者の顔はいかにも荒武者という感じ、けっして美しくないものの描くところには合っています。格好にも勇みがあり、全体として武者ものの魅力がよく感じられる作品でした。この組は数年来、さまざまに工夫して新しい試みを盛岡山車に取り込んできたわけですが、今回の作品に努力の成果がほぼ全て発揮されたように思います。加えて、ここ数年の盛岡山車各地域のよい作風を巧みに参照・発展させて、誰にでも魅力が伝わる楽しい作品となりました。見返しは草摺引き、ところどころに家紋をあしらった金の屏風を背景に、黒いどてらを両袖抜きにして赤に「かまわぬ」の紋の着物を着た五郎が、バンザイの格好で鎧を掲げています。足は綺麗に揃った気をつけの配置、表だと変な体勢ですが、見返しであればこのくらいわかりやすいほうが目を引けるでしょうし、スペースも上手に使えます。鎧も着物に合わせた赤ベースで、山車の動きに沿ってゆらゆらと揺れますが、その揺れ具合もこの体勢でこそ観客によく伝わります。

荒馬猛進 御身を盾に あるじ守るは 彦七郎
あるじ光秀 忠臣武者は 四天王(しおう)白藤 彦七郎


 

藤原清衡(青山組)

※演題解説※


 奥州藤原初代、少年時代の苦節をばねに後三年合戦を勝ち抜いた藤原清衡は、安倍・清原のつわものたちの菩提を弔うため、平泉に黄金楽土を築いた。炎立つさながらの煌びやかな大鎧を纏う馬上の清衡を飾った山車です。清衡の容貌は厳しく、釣り上がった眉に威厳のある口髭、兜は前立てのない星兜です。直垂はあえて白。栗毛の大馬から身を乗り出して敵兵に切りかかる、鬼気迫る場面でした。背景は明るめの青一色としています。見返しは紅葉狩り、更科姫の前シテが紅い着物を纏い、扇を持って舞っている場面です。扇をぎゅっと握って美しい中に殺気を現出し、容貌もどこか恐ろしげな雰囲気をかもしています。立ち姿ながら変化があり、すらりと背の高い見返しでした。背景は黒地に紅葉の葉、脇に飾った実際の紅葉と上手に絡んでいます。正統派の見返しでは、今年の出演団体の一二を争う出来でした。

蒼き蝦夷の 奥六郡に 建てし楽土は 平泉
難攻不落の 金沢柵に おごる家衡 討ち果たす


 

平維茂 武勇の誉れ 妖怪退治の 紅葉狩り

紅葉狩り(盛岡観光協会)
 信州戸隠の山中で美女と宴会をしていたら、美女は実は妖怪が化けたもので、危うく食べられそうなところを神の威徳で救われたという、古くから伝わる芝居の一場面。夜叉を退治する平維茂は開いた手をダイナミックに前に突き出し、刀は豪快に後ろに振り抜いています。容貌は大変凛々しく、女性と見まごうほどの美男子です。衣装は、上は薄紫にさまざまな刺繍を縫って襷掛け、白地の袴には平家の紋の蝶があしらわれて華やか。表には桜を飾らず紅葉を飾り、色は真っ赤なものと三色にグラデーションしているものを併用しました。鬼は松の木に上がり、髪をつかんで猛り狂っています。肌色の顔に茶色の隈取、眉が植えてあって、衣装は金地に黒雲の模様。彩がよいので、夜間照明にもずいぶんと映えました。見返しは維茂を起こす山の神様、孫悟空のようなワッカを頭にかけていて、隈取は虎退治の和藤内と似た感じ、神官の着るような深緑の千早を着て、榊の葉と御幣の混じった長い幣束を持っています。見返しにはもったいないほどきっちりした、風格のある面持ちでした。

平家の名刀 小烏丸が すがた暴いた 女夜叉
赤く染めたる 戸隠山に 錦彩る 夕紅葉


 

さ組『松の羽衣』

車引き(さ 組)

※演題解説※


 梅王丸・松王丸の兄弟が吉田神社でにらみ合う歌舞伎の名場面。松王は片手を袂に入れて体勢低く見得を切り、梅王は片手に白衣で包んだ槍の穂先を支えて正面をにらむ姿。槍は桜を支えにして反対側で止まっています。昨年の十郎の頭が松王、五郎の頭が梅王になりました。衣装の刺繍が豪快かつ煌びやかで、どてらの袖も綺麗に広がっています。顔の塗り方も甲乙付け難い丁寧さ、ここ数年の傾向を反映した小さめの組み方ですが、松や桜の存在感を強調して山車全体としての豪華さを出しました。試行錯誤を繰り返し、充分過ぎるくらい充分な努力の元に作られたことがよく伝わってきました。見返しは斬新な天女の姿、能の演者のような冠をかぶり、胸の鞨鼓をたたきながら天に昇っていく「松の羽衣」の場面、支え隠しに松葉の絵を効果的に使い、面白い形に仕上がっていました。照明は松に電球と青色発光ダイオード。

仁王もどきに 力みし姿 いずれも見事な 荒事師
松に嵐の たとえも知らず あだに散りゆく 梅桜


 

児雷也(み 組)

蝦蟇にくわつけ大蛇の術に 追いつ追われつ技比べ



 蝦蟇に変身して悪人や豪商を懲らしめる正義の泥棒。絵紙に現れているぬらっとした立ち姿がよく表現され、いかにも妖しい雰囲気です。髪をきちんと結い上げた児雷也を、私は今回初めて見ました。蝦蟇は眼が大きくて、口はへの字に曲がっています。爪の生えた手を前にちょこんと出して、かわいらしいような、おどけたような、味のある出来栄えでした。衣装は金の緞子、腰に錦で包んだ妖術の巻物、背景は板間にして淡い色彩に仕上げています。見返しはナメクジを使う綱手姫、緑色の着物に首からササラを提げ、片手にひしゃく、もう一方には巻物を持っています。茶色い大なめくじが舞台の下方に大きく表現されました。夜間は松に青色発光ダイオード、蝦蟇の眼はライトを入れて点滅させました。

悪を懲らしめ 庶民を助け 義賊の児雷也 晴れ姿
競う妖術 大蛇に蝦蟇か くのいち綱手が 技で勝つ


 

夜討ち曽我(い 組)

八幡の神に 捧げるい組 粋な歌舞伎の 夜討ち曽我

※演題解説※


 いつも通りの山車が出ました。



 

碁盤忠信(の 組)

碁盤片手に寄せ来る敵に 忠臣忠信 見得を切る

※演題解説※


 いつも通りの山車が出ました。



 

 





文責:山屋 賢一(見物日:9月14・15日)〜ページ内に設置した音頭はすべて、お祭りで実際歌われたものです〜




※今まで出てきた山車はこちらに整理しました

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