坂東八国 切り従えて 自ら名乗る 親皇を
いななく駿馬か 雄叫び高く すさぶ坂東 風雲児
熊谷次郎直実(本組)
昨年は盛岡で山車に出た熊谷次郎、一の谷の戦いで敦盛を呼び戻す、軍扇を手にした姿である。本組は黒扇を頭のすぐ上にかざし、かざしている腕がすっかり頭の後ろに入るように組んだ。このため動きの方向が前に詰まり、追いかける躍動感が出ている。馬も栗毛の表情豊かな馬で、前足は盆を大きく飛び出し、方向転換の動きが良く伝わる躍動感に富む秀作であった。鎧は金色が印象的で、全体の色彩が黒と金でよくまとまった。兜の前立ては三本、胴には熊谷陣屋などで目にする鳩の紋が入っている。絵紙には髭があるが、実物には髭をつけなかった。見返しは青の着物に黄色い袈裟をかけた坊主人形、敦盛を討って世を儚み、出家した直実の姿である。
権太栗毛に うち跨りて 次郎直実 一の谷
戦といえど 儚い命 無常感じる 蓮生坊
真田幸村(上町組)
智将真田に はためく風は 六連銭の 馬印
茶臼の陣で 勇士とともに 力尽きしに 最期を遂げる
勧進帳(西法寺組)
西法寺組は平成8年以来の勧進帳。弁慶が金剛杖をかざして関守の前で義経を打ち据える場面だが、単に金剛杖を使った見得の切り取り、と捉えても十分に楽しめる。背景は立派な木の門に安宅関の表札、下半身が通常の山車と比べてだいぶ窮屈な位置に入ってしまっているが、代わりに上半身の動きが十分に出た。金剛杖を斜めに構え、手前に大きく突き出すように組んでいて、方向転換のときなど、非常に面白い動きを見せた。盛岡山車の新たな組み方となるのだろうか。見返しは渋い色の衣装をまとった大黒様が、俵に乗って小槌を構える縁起の良い演し物。
越すに越されぬ 安宅の関に 命かけたる 勧進帳
碇知盛(野田組) 演題紹介
野田組は平成13年以来の碇知盛、得意演題を選んだ。壇ノ浦の戦いに敗れた平家の総大将平知盛が、大碇を諸手に掲げて荒波に身を投げる姿を描く。顔が坊主頭に眉を剃った公家の書き眉、顎鬚を豪快にはやした異彩を放つ風貌、船は赤で背景に波頭と平家の赤い幟、飾りのところどころに矢を刺して凄みを出した。見返しは、義賊の鼠小僧が豪商の金蔵を襲って貧しい民に大判小判を分け与えている姿。足場は蔵の屋根瓦、足元に千両箱を2つ3つと踏み据えて、肩に抱えた千両箱から金銀小判があふれ出て草履の裏に1枚2枚と張り付いている。指を3本開いて投げる格好に作った手からは竹串が伸び、先にきらきらと小判が舞っている。衣装の布地はきらきらした薄紫で、頬かむりも紫と金の合わせ、頬かむりとは思われないほどに格好よく仕上がっている。
紅の幟か 波間の白か 碇知盛 これにあり
碇知盛 波間に消える 恨み尽くせぬ 壇ノ浦
江戸の暗さに 山吹輝き 世直し鼠が 世を照らす
江戸に咲く花 数々あれど 世直し小僧の 心意気
世直し小僧が 屋根から散らす 大判小判の 山吹色
文責:山屋 賢一(見物日:8月30・31日)