八坂神社稲荷神社例大祭一戸祭り 山車と音頭の記録


平将門(橋中組) 演題紹介
 橋中組は昭和51年以来の平将門を再製作。この演題は一戸に限って見られるもので、盛岡山車伝承圏には共有されていない。桜にしなだれかかるような斜めに据わった馬は筋骨隆々として、跨る将門も乗馬から身を乗り出し、敵兵をいざ斬らんかと気迫にあふれている。肩の鎧がふわりと舞って流れるような一体感をかもす秀作。鎧は白・赤・紫の威しで照明にも良く映えた。見返しは白い着物の雨の五郎、背景に廓の垣根を飾り、足元から七色の光で人形を照らす。化粧が大変綺麗で、髪の形も頭巾の下に美しく見えるような仕上げ。傘の高さや握りではない手、単純な正面正視ではなくある角度でぴたりと目線がきまる演出など、見返しの特性が活きる秀作であった。

廓遊びに仇討つ爪を 隠し錦を身に纏う

坂東八国 切り従えて 自ら名乗る 親皇を
いななく駿馬か 雄叫び高く すさぶ坂東 風雲児



 

花の若武者その手にかけて 武士の無情に咽び泣く

熊谷次郎直実(本組)
 昨年は盛岡で山車に出た熊谷次郎、一の谷の戦いで敦盛を呼び戻す、軍扇を手にした姿である。本組は黒扇を頭のすぐ上にかざし、かざしている腕がすっかり頭の後ろに入るように組んだ。このため動きの方向が前に詰まり、追いかける躍動感が出ている。馬も栗毛の表情豊かな馬で、前足は盆を大きく飛び出し、方向転換の動きが良く伝わる躍動感に富む秀作であった。鎧は金色が印象的で、全体の色彩が黒と金でよくまとまった。兜の前立ては三本、胴には熊谷陣屋などで目にする鳩の紋が入っている。絵紙には髭があるが、実物には髭をつけなかった。見返しは青の着物に黄色い袈裟をかけた坊主人形、敦盛を討って世を儚み、出家した直実の姿である。

権太栗毛に うち跨りて 次郎直実 一の谷
戦といえど 儚い命 無常感じる 蓮生坊



 

真田幸村(上町組)

敵は家康ただ一人(いちにん)と 馳せる真田の赤備え

 上町組は平成15年以来の馬を使った演題、大坂夏の陣で最後の戦に出る真田幸村。兜は金の鹿角に六連銭の前立て、赤を基調とした具足で馬上に槍を操る姿。人形の目線をあえて正面に据えず、高さを印象付けている。背景に大坂城、白地の旗指物に六連銭をきらきらした布地で縫いつけた。見返しは真田十勇士の一人で由利鎌之助、鎖鎌を構えた忍者の姿で、分銅が宙を舞っている。

豊家支えし勇士とともに 真田幸村 花と散る

智将真田に はためく風は 六連銭の 馬印
茶臼の陣で 勇士とともに 力尽きしに 最期を遂げる



 

勧進帳(西法寺組)
 西法寺組は平成8年以来の勧進帳。弁慶が金剛杖をかざして関守の前で義経を打ち据える場面だが、単に金剛杖を使った見得の切り取り、と捉えても十分に楽しめる。背景は立派な木の門に安宅関の表札、下半身が通常の山車と比べてだいぶ窮屈な位置に入ってしまっているが、代わりに上半身の動きが十分に出た。金剛杖を斜めに構え、手前に大きく突き出すように組んでいて、方向転換のときなど、非常に面白い動きを見せた。盛岡山車の新たな組み方となるのだろうか。見返しは渋い色の衣装をまとった大黒様が、俵に乗って小槌を構える縁起の良い演し物。

打つに重たき金剛杖で あるじ義経守り抜く

越すに越されぬ 安宅の関に 命かけたる 勧進帳


 

碇知盛(野田組) 演題紹介
 野田組は平成13年以来の碇知盛、得意演題を選んだ。壇ノ浦の戦いに敗れた平家の総大将平知盛が、大碇を諸手に掲げて荒波に身を投げる姿を描く。顔が坊主頭に眉を剃った公家の書き眉、顎鬚を豪快にはやした異彩を放つ風貌、船は赤で背景に波頭と平家の赤い幟、飾りのところどころに矢を刺して凄みを出した。見返しは、義賊の鼠小僧が豪商の金蔵を襲って貧しい民に大判小判を分け与えている姿。足場は蔵の屋根瓦、足元に千両箱を2つ3つと踏み据えて、肩に抱えた千両箱から金銀小判があふれ出て草履の裏に1枚2枚と張り付いている。指を3本開いて投げる格好に作った手からは竹串が伸び、先にきらきらと小判が舞っている。衣装の布地はきらきらした薄紫で、頬かむりも紫と金の合わせ、頬かむりとは思われないほどに格好よく仕上がっている。

紅の幟か 波間の白か 碇知盛 これにあり
碇知盛 波間に消える 恨み尽くせぬ 壇ノ浦


民の味方の 義賊の鼠 夜半に小判の 花嵐

江戸の暗さに 山吹輝き 世直し鼠が 世を照らす
江戸に咲く花 数々あれど 世直し小僧の 心意気
世直し小僧が 屋根から散らす 大判小判の 山吹色

 

 

文責:山屋 賢一(見物日:8月30・31日)






※今まで出てきた山車はこちらに整理しました

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