盛岡山車の演題【見返し 牛若丸】
 

牛若丸

 



一戸町上町組平成13年

 京の五条の橋の上。夜な夜な怪僧が現れて平家の公達から太刀を掠め取るとの噂。今宵も一人、腰に玉造の太刀をさした若者が橋に差し掛かる。法師を恐れてか、頭から女の着る小袖を被り、優雅に笛を吹きながら橋を渡ろうとした。「卑怯者!」と言うが早いか、襲い掛かる荒法師。振り下ろされた薙刀をひらりとかわして若者は、手にした扇を荒法師の額にパッと投げつける。怒った法師は力任せに大薙刀を振り回すが、いつまでたっても天狗のような若者の姿をとらえることができない。ついに降参した法師、武蔵坊弁慶と名乗って若者の家来になる。若者は後に平家を壇ノ浦に破る名将、源義経その人であった。

 ここでは、盛岡山車の見返しに飾られる『牛若丸』について紹介したい。表裏一体型というのがあって、表に飾った場面と関係のあるような趣向を見返しに飾るこだわりが、一部の山車組みで大切にされている。義経を表に飾った場合、見返しには静御前を飾ったり、子供のころの義経のエピソードとして五条の橋の場面を取上げることがある。

 表面に五条の橋を飾る場合は、弁慶が付く。盆の上に朱塗りの五条の橋を乗せ、弁慶は大人形、牛若は子供の人形乃至女の人形で作る。かたや七つ道具をたくさん背負った弁慶であったり、他の色彩を全て殺して牛若の色彩を引き立たせる作品であったり、発想は多岐に亘っている。牛若については、勢いよく松のあたりまで跳ね上がった躍動的な姿が特色である。

盛岡市鉈屋町め組『義経弓流し』見返し(平成18年)

 牛若丸のみを飾る見返しは、盛岡鉈屋町のめ組がよく使う。よく使うだけあって、大変まとまった上手な牛若丸だ。必ず片手に扇を持たせて、弁慶を翻弄する姿に作る。石鳥谷の中組も何度か牛若丸を作ったが、透けた小袖を両手に支えて飛び上がっている場面で、表情も柔らかかった。盛岡仙北町のは組が能面のような顔で牛若丸を作ったが、これも両腕を伸ばして小袖を広げるようにして跳んでいた。心棒を竹にして、山車が揺れるとたわんだ竹により牛若が前後に動くようにする工夫もある。一方、一戸の上町組などは牛若が支えなしで浮いているように見せるため、股ではなく背中に支えの芯を入れた。結果、思いがけない躍動感を演出することができた。跳ねない牛若丸として、笛を吹く立ち姿を見返しに飾った組もあった。




文責・写真:山屋 賢一

(ページ内公開〜定型外のもの〜)

  笛吹き:石鳥谷  笛吹き:沼宮内  弁慶牛若:沼宮内  常盤御前:石鳥谷  


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(音頭)

義経弁慶 主従の誓い 五条の橋の 月明かし
橋に牛若 夜露の五條 笛を慕いし 秋の月
切り込む弁慶 ひらりと交わす 牛若丸の 身の軽さ
かつぎにやつす 牛若丸が 見事弁慶 打ち負かす
五条大橋 主従に揺れて 出会いは牛若 武蔵坊
今宵牛若 名残の笛に 五条を渡る 秋の風

沼宮内の組『義経鵯越の逆落とし』見返し(平成19年)





文責・写真:山屋 賢一


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