盛岡山車の演題【風流 牛若弁慶】
 

五條大橋 牛若弁慶

 



紫波町日詰下組平成4年

 驕る平家を壇ノ浦に攻め滅ぼした源義経と、一の家来といわれる武蔵坊弁慶(むさしぼう べんけい)との出会いの物語。
 京の五条の橋の上に、夜な夜な怪僧が現れるという。果たしてその実態は、平家の公達(きんだち)から金銀の細工をちりばめた太刀を奪い、末世の憂さを晴らす武蔵坊弁慶であった。弁慶は公達から1000本の太刀を集め、千手観音に捧げようと考えていた。漸く1000本目が集まろうかという或る夜、女の衣をまとい、笛を吹いて橋の向こうから歩いてくる公達に弁慶は目を留めた。見れば着物の端から見事な大太刀が覗いている。
 「卑怯者!」と言うが早いか、襲い掛かる弁慶。その薙刀をひらりとかわした牛若丸(うしわかまる)は、手にした扇を荒法師の額にパッと投げつけた。いよいよ怒り狂って、力任せに大薙刀を振り回す弁慶、しかし、いつまでたっても天狗のような牛若の姿をとらえることができない。
 牛若丸とは、平治の乱で平家に攻め滅ぼされた源義朝(みなもとの よしとも)の八男で源氏の御曹司(おんぞうし)、後に元服して源九郎義経となる若者である。身の丈何倍もある法師に物怖じもせぬ腰の据わり方、そして鋭敏な機転…。「参った」 弁慶はついに両手を突いて降参した。平家を倒すにはこの方しかいないと確信したのである。かくして月夜の晩の五条の橋で、義経・弁慶という伝説的主従が誕生した。

石鳥谷町上若連平成16年

 五条の橋の牛若弁慶は、京都の祇園祭りにも登場する有名な昔話の山車である。五条の橋を山車に作る風習が無い地域など、おそらく日本に無いのではなかろうか。もちろん盛岡山車にも古くから伝わってきた演題ではあった。ただし、「定番」と呼べるほどよく出てきたわけではなかった。近年では大河ドラマ「義経」が放映された平成17年に、一の谷と五条の橋の山車が盛んに作られている。

 盆の上に朱塗りの五条の橋を乗せ、弁慶は大人形、牛若は子供の人形もしくは女の人形で作る。ほかの山車では弁慶と牛若が体躯の上でそれほど差が無く、ともに直立状態で作られることが多いが、盛岡では通常、小柄の牛若を舞台斜め上に勢いよく跳ね上げて場面に変化を加える。背景は、京の夜の満月である。

 思い当たるところ上記の点でおおむね共通するばかりで、盛岡山車の五条の橋には作品ごとに、さまざまな工夫が凝らされている。かたや七つ道具をたくさん背負った弁慶であったり、弁慶を黒装束白塗りにするなど他の色彩を全て殺して牛若の色彩を引き立たせたり、中には牛若が電動で上下に動く奇作さえあった。これだけ一般に知られた構図に山のように創意を盛り込むというのも、風流山車ならではのことであろう。山車の絵紙には月岡芳年(つきおか よしとし)の錦絵の影響が色濃く、弁慶が非常に躍動的に描かれている。京の夜空を拡張して、上部まですっかり青く塗ってしまった絵紙もあった。

 牛若丸のみを飾る見返しもある(別項)。盛岡のめ組がよく使う他、石鳥谷の中組もマネキン人形で作っている。心棒を竹にして、山車が揺れるとたわんだ竹により牛若が前後に動く仕掛けも見られる。笛を吹く牛若の立ち姿の見返しもあった。



文責・写真:山屋 賢一



葛巻町下町組平成18年


山屋賢一 保管資料一覧
提供できる写真 閲覧できる写真 絵紙
盛岡山車『五条大橋』

一戸橋中組・日詰下組(本項)
沼宮内ろ組
石鳥谷上若連(本項)
盛岡三番組・葛巻下町組(本項)
一戸橋中組
川口下町山道組
沼宮内の組(見返し)

石神の丘美術館展示山車人形 

盛岡川原町
盛岡と組
盛岡は組・沼宮内新町組
盛岡観光協会(新聞広告)
一戸橋中組@A
一戸上町組
一戸西法寺組・二戸堀野東側
沼宮内新町組
(沼宮内の組)
盛岡三番組(圭)
一戸橋中組
川口下町山道組

盛岡茅町
盛岡二番組
盛岡川原町
盛岡と組・盛岡観光協会
盛岡は組
石鳥谷上若連
ご希望の方は sutekinaomaturi@hotmail.co.jp

 

(ページ内公開中)

一戸  沼宮内  岩手川口

二戸  十和田


(音頭)

迫る笛の音(ね) 月影冴えて 躍る五条の 荒法師
宿願成就
(しゅくがんじょうじゅ)に あと一振りと かざす薙刀 武蔵坊
七つ道具の 武蔵坊弁慶 牛若股肱
(ここう)の 臣となる
末世
(まつせ)(うれ)いし 弁慶諭(さと)し 打倒平家の 夢を追う
平家を討たんと 主従
(しゅじゅう)の契り 月も微笑む 五條橋
義経弁慶 主従の誓い 五条の橋の 月明かし
橋に牛若 夜露
(よつゆ)の五條 笛を慕いし 秋の月
勇みと情けを 備えし君よ 契りを結ぶ 橋弁慶
切り込む弁慶 ひらりと交わす 牛若丸の 身の軽さ
義経弁慶 主従の誓い 水に映るは 十七夜
(じゅうしちや)
かつぎにやつす 牛若丸が 見事弁慶 打ち負かす
忍ぶ姿の 牛若丸に 迫る弁慶 五条橋
五条大橋 主従に揺れて 出会いは牛若 武蔵坊
今宵牛若 名残の笛に 五条を渡る 秋の風



 


※南部流風流山車(盛岡山車)行事全事例へ


★東北各地の人形山車『五条の橋』大集合!!★
「新庄祭り」進行方向に対して横向きに飾りを作る、山形県を代表する人形山車です。木彫りの首や手足は気品があり、体は盛岡と同じように藁を巻いて作る木目込み式です。
「野田観光祭り」陸中沿岸北部野田村の夏祭りで、山車が3台運行します。この年は東日本大震災で開催が危ぶまれましたが、津波を免れた資材を3つの組が持ち寄り、二戸の業者の無償提供によって山車一台を運行できました
「五戸祭り」

「花巻祭り」岩手県内では最も有名な山車のお祭りで、夜はガスバーナーに生の炎を点し、幻想的な姿で運行します。人形は手作りの素朴なものが多く、盛岡流の山車と比べて「女ぶり」の山車といわれています。

「八戸三社大祭」せり上げの仕掛けで大きくなったり小さくなったりする、青森県の山車です。表にはたくさん人形を乗せた「鞍馬山」を飾り、五条の橋は見返しに作りました。電線を潜ると大きな月が起き上がり、牛若丸が上に動きます。
「角館まつり山行事」秋田県の有名な山車のお祭り、現地では飾山と書いて”おやま”と呼んでいます。夜を徹して運行される山車は同じ道を二度通ることを恥としているので、道を争う「山ぶつけ」をします。この作品は大河ドラマ「義経」をモチーフに牛若丸を大人に描き、弁慶の薙刀に乗った格好に作っています。


「二戸まつり」岩手県北最高台数の9台の山車が3日間市内を運行。写真の在府小路八幡平の山車は、町内会による手作り。牛若丸になかなかいい動きが付いています。


※このサイトでは比較対照の為、各流派の山車について五條の橋を作ったものを重点的に掲載しています inserted by FC2 system