熊野神社例大祭いしどりやまつり2011兼、山屋の雑記帳

 



 盛岡歌舞伎山車の根本的な魅力は夜間照明下にあると気付かされ、同時に居心地の良い歌舞伎山車とはどんなものであるかを数々実感させられた。このような山車は一朝一夕には出せない。先人の試行錯誤と謙虚に学ぶ作り手の心意気・良い物を出したいとの熱烈な思いの現れであろう。



上若連弁慶富樫 / 静御前

圧巻の豪華さ

覚悟秘めたる 主従の思い 富樫情けの 安宅越え

※演題紹介※

 
極端にスペースを絞った見返し

 この山車のすごさは、従来試みられてきた歌舞伎もの・2体ものの可能性を大きく広げている点にある。まず配置について。富樫側から眺めると、弁慶がいつまでも視野の端に残ってどんどん表情を変えていく。一方弁慶側から眺めると、或る角度に至れば富樫はすっぽり隠れて見えなくなる。この山車はおそらく、後方から追いかけて弁慶側から眺め、富樫の現れる様に驚くように作られているのであろう。富樫の手つきも、このようにして見ると最も効果を発揮する。正面から見れば両人形のいずれ劣らぬ豪華さに圧倒されるばかりで、なおかつ背景の松葉目を絵にせず白木の板に実物の松や竹を立てて表現する粋な計らいに感嘆する。立体表現であるからこそ懲らせる工夫が滝のように織り込まれ、なおかつ透き通るような上品さで仕上げられた秀作。巻物を立てれば弁慶の胸のあたりがきちんと照らせるのだが、あえて寝せたのは白紙の中身を見せようとの意図であろう。

まさに横綱相撲の風格

 




中組矢の根五郎 / 羽根の禿

照らされてさらに幽玄に

富士を背中に 鏑矢を研ぐ 袂蝶飛ぶ 曾我五郎

※演題紹介※


必須小道具の門松付き

 これまで私が見てきたこのタイプの矢の根五郎では最も良くできた作品の一つだと思う。左右いずれから見ても勇みがあり、彩りも良く、華やかである。古来の名優を見事に凝らした隈取りのなんと快く、見事なことか。背景は2要素を同時に上げながら混雑せず、きちんと豪華さを演出できている。見返しは暖簾を軽く人形に絡めたのが可愛らしく、正月の門松や牡丹の幕など小道具一つ一つが見事に活きている。雨天は惜しいが、正面を遠望した際に雨よけが額のように作用し、豪華絢爛たる歌舞伎山車の魅力に圧倒された。

どこから見ても良い山車です

 




下組熊谷陣屋 / 藤の方

九郎の制札我が子を討てと 悲哀伝えた若桜

義経与えし 制札抜きて 直実無情の 見得を切る

※演題紹介※


青葉の笛を吹く敦盛の母

 表裏とも経験済みの趣向だけあって、前作の改善点があまねく解消され左右いずれから見てもズレの無い山車に出来た。表情に若干勇みが欠けてはいるが、人形の設置位置が絶妙で正面遠望の景がとりわけ快く、大人形の特性を十二分に活かしている。見返しも単純な笛吹き姿でなく動作に引きがあり、背景は表裏とも奥深く見入って充分耐えうる完成度であった。

前回はここからの見栄えがアレだったが、今回はばっちり








上和町組碁盤忠信 / 八百屋お七

心意気の雨よけ外し

碁盤振り上げ 寄せ来る敵を 討ちて蹴散らす 歌舞伎見得

※演題紹介※


櫓のお七、美しく凄まじく

 表は平泉世界遺産を祝って平泉の武将、見返しは大震災を踏まえた防災喚起の趣向という。
 昼間は月並みだが、夜間は特に色鮮やかに感じられる山車であった。城西譲りの色彩(襷の色、袖口の色)を殺さない絶妙な飾り方が工夫されている。見返しは梯子のもう一段上に飾れば尚良かったが、半鐘を叩く手付きが色っぽく、流れるような美しさがあった。紅葉の飾り方も、このような形が最も美しい。

足場を板にして色彩を浮き立たせる







西組連獅子 / 林檎娘

雨よけを避けて撮影

朝日輝く 熊野の祭り 商売繁盛の 守り神

※演題紹介※


 ここ数年の作品に見られた「この組なりの味」が薄れた感じはするが、両者のバランスが良い連獅子ではあり、子獅子の開いた手の位置がうまいところに収まっていた。髪の素材が本格的であれば、本物感が出る山車になったかもしれない。

重ねて作ったら必ず変化を入れる




※石鳥谷熊野神社祭典山車歴代演題


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