川口豊城稲荷神社祭典山車2011

 



 川口にも沼宮内にも共通する、山車を飾る上での美学がある。松は格段に美しく雄々しく、飾り全体に山野の奔放さが溢れ、飾りすぎず人形自身の魅力で勝負する。岩手町の山車が例外なく放つ美しさに、今年も圧倒された。


下町山道組義経八艘飛び / 武蔵坊弁慶

平家追討思いも熱く 荒波恐れぬ八艘飛び

渦巻く海峡 恐れも無しに 飛ぶや義経 颯爽と
義経弁慶 役者も揃い 故郷負けんと 加勢する

※演題紹介※

 
見返し弁慶薙刀構え 災い断ち切る其の雄姿

 八艘飛びは、源平壇ノ浦の合戦で敵将能登守教経の猛追を逃れつつ海流の変化を待つ源義経の勇姿である。下町山道組は平成8年に一度製作、当時は刀を手にした1体の趣向であったが、時代考証に配慮し船をあえて地味に仕立てた。今回も控えめな船を踏襲し、義経のきらびやかな甲冑姿を引き立てる演出を行っている。

蝶か燕か赤間ヶ浦を おどる緋縅 大鎧
絵だけであれほどの海を再現できるのかと圧倒された。人形にも際立って本物感があり、遠目であればあるほど映える山車であったと思う。薙刀が大ぶりであったら、船と足との距離がもう少し在ったら、盾の家紋が無地に近い色彩であったら、波の上にもう一つ船の影があったら…などと欲張りに考えてしまった。見返しも勇みがあり、何か場面を作ってみても面白かったと思う

 




み 組蘭丸忠戦 / じょろべすくい

まさに戦場の形相

時は天正 ととせのふかば うらみは深き 本能寺
叛乱明智の 先鋒迎え 槍で射止めし 森蘭丸

※演題紹介※


大人形の蘭丸は川口サイズならではの見応えで、厳しい表情も乱戦なれば斯くやと思わせる説得力があった。背景も立体で作って隙が無く、色彩も淡くまとまって美しい。首から上と下が上手く会話できていない感があったが、見慣れればこれはこれで良いのかとも思う。下の武者がもう少し上に攻めていれば、両側から見栄えがしただろう。見返しも退屈でなく、夜は背景を照らすライトが効果的に機能して清流を鮮やかに描き出した

 盛岡山車の森蘭丸は、一番組や二番組といった古参の山車組が自慢にしてきた演し物の一つで、本能寺の変の際に織田信長を守って戦った小姓の勇姿を描いている。盆の上に欄干を作って上に蘭丸、下に明智三羽烏の安田作兵衛を飾り、両者を一筋の槍で繋ぐ。蘭丸の両手と作兵衛の片手を一本の槍の上に並べる「三本通し」は盛岡山車人形の難関技術の一つで、上手く出来れば非常に見応えのする武者の山車となる。

夜は背景が青白く照らされた

 




井 組信長炎上 / 園井恵子

織田信長の志半ば 夢と散りゆく本能寺

天正十年 明智の謀反 炎と散りゆく 信長公
信長公の 天下統一 心も空し 本能寺

※演題紹介※


見返しは、これまで川口で見られた内では最も美しかった。顔も仕草も良いし、背景の使い方も良い。桜の枝がもう少し引いていたら、もっと見やすくなったと思う。表は斬新で面白いが、水色の寝間着・草庵のような屋根など多々不自然な点があって、信長をイメージさせるには不足分が多かった。肌の仕立てや足の上げ具合は見事であったので、顔の配置を工夫して睨むような凄味が加われば映えたと思う

 戦国乱世の数々の名場面のうち最も劇的な、覇王織田信長の横死。かつて大敵今川義元の油断を突いた信長が、今度は腹心に寝込みを衝かれ油断大敵の教訓を世に残す皮肉。志半ばで斃れた英雄の夢は、今も多くの歴史ファンに浪漫を与え続けている。髪を振り乱し欄干に踏み出す信長を「本能寺」として飾るのは、津軽の人形ねぶたの作法であるが、今回川口祭りで初めて盛岡山車に移入された。他のいかなる演題にも無い異様さを放つ山車である。







※正式な演題名はこちらで


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