石鳥谷熊野神社祭典山車2006

 



(当年見物の感想)
 片肌脱ぎだったり、鯉が飛び出したり、背が高かったり…単に奇をてらうだけではなく、きちんとした技術を下地にした楽しい作品が多い年でした。「観客を楽しませるような」技術の高さであったのが嬉しかったです。本当に上手な山車とは、そういうものではないでしょうか。
 音頭の筆録がほとんど出来ませんでした。写真には私が作った創作音頭を添えております。



中   組
歌舞伎十八番の内 象引 / 弥生姫】
この組だけがやれる、最高の歌舞伎山車。綿入れの厚味のある衣装が威力を発揮。

力くらべの 荒事歌舞伎 猛者の証と 象を抜く
象の威容に 優れる勇み 華の役者の ひとにらみ

 山車を楽しむために歌舞伎を学ぶ人たちは、「歌舞伎十八番」という言葉に必ず出会う。最盛期の歌舞伎には、現代でいう時代劇と現代劇に当たる2種類があった。このうち時代劇に当たる一群が、山車で良く目にする隈取を取った非現実的な出で立ちのつわものたちの演目である。市川団十郎が筋隈取を取って演じる「荒人神事(あらひとがみごと)」通称「荒事」と呼ばれる演目のうち、とりわけ得意としたもの十八種が「成田屋荒事歌舞伎十八番」で、山車演題の定番「矢の根」「勧進帳」「暫」「景清」などをも含まれている。中に異色の演目2つ。筆者を含め素人の目を釘付けにする「不動」と「象引」。
 …このようなわけで、山車を見るため少しばかり歌舞伎の本でもめくった祭り好きの間では、「象引とはどんな歌舞伎だろう」「象引って山車になるのか?」「山車になるとしたらどんなふうだろう」と長年にわたる深い興味があった。逸話は大化の改新でおなじみの蘇我入鹿が舶来の獣の胴体に賄賂の黄金を隠していたが、中大兄皇子の家来の力持ちがその獣の胴を引き裂いて見事悪事を暴く、という筋書きであるらしい。そんなことは特に関係なく、「象引」という言葉の、そしておぼろげながら目の前に現れるいくつかの痕跡(錦絵や白黒写真)の奥に雄大に広がる山車好きたちのイマジネーション、いわば夢が、象引の山車を前に喜びに変わる。

お姫様の宝物の鏡を狙って、象が大暴れしている場面







上和町組
【鬼 若/小姓弥生】
まるで闇の東京湾から静かに浮かび上がるゴジラのような「得体の知れない化け物」の恐怖

稚児の鬼若 修行の山で 見事しとめた 池の主
竜とならんと 尾びれを上げて 跳ねる錦の 鯉つかみ

 鯉は滝を逆さに登って竜になるという。古来より、男児出生の折に童子が鯉を捕まえて滝を登る絵柄が引き出物として好まれ、もってその子の立身出世を願う風習が在った。鯉抱き金時や鬼若の物語がこの絵柄に沿って創作されたのか、それともこれらの伝説が先行して画題に取り上げられるにいたったのか、現代の私たちには知る術も無いが、鯉抱きの山車には子らの健やかな成長を願う庶衆の暖かな気持ちを個人的に感じている。


今までには無かったタイプの「よくできた見返し」







上 若 連
【毛 剃/汐 汲】
音頭を上げるために山車の鼻先を回転させる瞬間、人形がぐーっと前に出る。波濤に浮かぶ豪快な構図で、すごくかっこよかった。

勇む毛剃に 荒ぶる波よ 船を漕ぎ出し 拓く道
仰ぐ毛剃の 鉞唸り 天に逆巻く 乱気流

※演題紹介※

 
 近松門左衛門の「博多小女郎浪枕」が原典の「毛剃(けぞり)」は、海賊の大親分が鉞を背負って船端を睨む姿の役者絵が迫力満点で、盛岡山車にはほぼこの役者絵一枚から構想された毛剃九右衛門の一体人形が上がる。内容もなかなか変化に富んだ面白い筋書きのようだが、この演題は物語への憧憬ではなく、単に構図の勇ましさへの憧憬で構成されている。このようなあり方が、実は歌舞伎山車の原典に近いのかもしれない。


形見の烏帽子羽衣映し 月夜の濱に偲ぶ恋(上若連)







 

下    組
【楼門五三桐(さんもんごさんのきり)/白酒売りの秀吉】
夜間照明下では欄干や背景がくっきりと浮かび上がり豪勢な雰囲気。人形の体勢も大胆、威圧感・迫力があり、柄をグイと下に向けて刀を構えたのも効果的

値千両 桜花の海に 伽藍競いて 南禅寺
花の山門 五三の桐で 五右衛門秀吉 睨みあい

※演題紹介※

 
題目から「ああ、これは秀吉なんだな」とわかるようであれば、もう少したくさんの方々が楽しめたかもしれません
 

 ルパン三世でもおなじみの石川五右衛門は安土桃山時代に実在した盗賊だが、その後文学の世界で様々に脚色され、小気味のいい粋な親分肌の大泥棒のイメージが定着した。大坂城に鯱の目玉を盗みに忍び込んで秀吉に囚われ、京都五條川原で釜茹でにされた話も有名である。
 歌舞伎「楼門五三桐」は南禅寺の四方を囲む桜の花を、華やかな望楼の上で煙管をふかした五右衛門が「値万両、絶景かな絶景かな」と愛でるおなじみの場面に始まり、白酒売りに化けて様子を伺いに来た秀吉(劇中では「真柴久吉」)を見咎めた五右衛門がクナイを投げるくだりへと流れる。








西組【景清/りんご娘】
歴代のりんご娘では一番の出来

奢る源氏に 目にもの見せる 意地の景清 牢やぶり
(見返し)南部娘が 実りの秋を 祝い摘み取る 実の重さ

※演題紹介※

 

 平家の侍大将藤原景清が壇ノ浦の戦いで捕縛され、鎌倉に幽閉された。景清の奮戦でたびたび痛い目を見た源氏の兵卒たちは、土牢にがんじがらめにされた景清をみて、ここぞとばかり罵声を浴びせる。「くやしかったら牢をぶちやぶって出てきてみろ」景清は南無観世音と祈るや否や、雷鳴の如き轟音とともに柱を砕いて牢をやぶり、兵卒どもに目にもの見せる。しかし「死ぬる覚悟を疑われまじ」と思い直し、自ら柱を戻して、元のとおり牢に入った。
(近松門左衛門『出世景清』による)

手の形は、牢屋の柱をしっかり掴むように作られている








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