盛岡山車の演題【風流 楼門五三の桐】
 

楼門五三の桐

 


石鳥谷下組平成18年


岩手町沼宮内大町組平成11年

 さんもん‐ごさんのきり。桃山時代に「天下の大泥棒」と謳われた石川五右衛門(いしかわ ごえもん)が、京都南禅寺(なんぜんじ)の楼門(さんもん)から四方に桜の咲き誇る様を見下ろし、「値千金。絶景かな、絶景かな」と煙管(キセル)をくゆらす有名な歌舞伎の場面を山車にしたものである。歌舞伎の名場面数ある中でも割とポピュラーなものだが、盛岡周辺で山車につくられる例は少ない。盛岡山車の表現に合わせるに当たって、南禅寺楼門をどのくらい場面に切り取るかがなかなか難しいのだ。
 凝った歌舞伎ものを好む沼宮内の大町組が、盛岡流としてははじめてこの演題に取り組んだ(平成11年)。五右衛門が煙草をふかす幕開けの場面を作っている。このときに出てくる煙管は、歌舞伎の小道具の中でもとりわけ大きく立派なことで有名である。歌舞伎の衣装は場面が展開するたびに地味になっていくことが多いから、人形で華やかさを出そうとするならば、この煙管の場面を使うのが最も良い。大町組の五右衛門は、門のつくりや衣装のデザイン・煙管の役割など、後に作るものにいろいろなヒントを残した。

紫波町日詰上組平成27年

 石鳥谷の下組は煙管を使わず、大太刀を手に腕まくりをして欄干の下を睨む姿の五右衛門をつくった。背景がまばゆいばかりに華やかで、衣装や隈取ではな舞台装置で歌舞伎の派手さを引き出すという斬新な一面があった。見返しにはこの歌舞伎に登場する「真柴久吉(ましば ひさよし:史実の豊臣秀吉)」を飾り『南禅寺楼門の場』とした。実際の舞台では五右衛門が手裏剣を投げると楼門がせり上がり、門の下で柄杓を構える久吉が現れる。手裏剣を柄杓で防いだ態である。以降この演題の見返しはほぼ全て、この趣向で統一されるようになった。
 盛岡のか組は飾り下方に大胆に大屋根を突き出し、他に類例のない豪快奇抜な作品に仕上げた。刀を抜きかけて「天地の見得」を切る五右衛門の人形そのものは、幕切れ近くであるため衣装の色合いも黒と紫・化粧も白黒と極めて地味であるが、そうであるからこそ山車全体に凝らされた豪華絢爛な甍が映えた。この作品をもって、盛岡山車『楼門五三桐』はほぼ完成を見たといって良い。
 五三の桐にかぎらず、五右衛門の登場する山車は非常に珍しい。有名な人物であるのに不思議な気もするが、お祭りごとに泥棒を飾ることがはばかられるのかもしれない。一方で「義賊」という存在には、裸人形演題の「傾き」に通じる庶民の心意気も感じられる。

 盗賊・義賊に類する山車のモチーフとしては、他に『女鼠小僧』『自来也』『弁天小僧』などが挙げられる。自来也は定番だが、とりわけ千両箱を抱えた「片手六法」タイプのものは盗賊らしい姿である。

『巡礼の秀吉』秋田県角館町(購入写真)

 大泥棒の五右衛門は、天下人豊臣秀吉の鼻を明かそうと、大坂城の天守閣に据えられた金のシャチホコの翡翠の目玉を盗みに入る。このとき嵐を待って大きな凧に乗り天守閣まで飛び上がったとの伝説があり、日詰の一番組が凧に乗った五右衛門を山車の題材に採り上げている。『大阪城鯱の目盗り』は凧に乗って大坂城の天守閣にたどり着いた五右衛門一味が豊臣秀吉と鉢合わせになり、秀吉を守るために四方から詰め掛ける豪傑たちと決闘を繰り広げる、大変華やかな場面である。八戸山車の様式をぞんぶんに活かせる演題で、筆者が小学生のころ(平成5〜6年くらい)に現地で秀作が出た。自作に至った久慈の秋祭りにもこの構想を生かした、なかなかよい山車が出た。同じく人形をたくさん使う岩手の花巻・山形の新庄などでは、なぜか取り組まれていない。
 五右衛門はこれがもとで秀吉に捕まってしまい、京都の三条河原で油の煮立った大きな釜に妻子とともに生きたまま投げ込まれ、「釜茹での刑」にて絶命する。釜茹の山車が二戸祭りに出たときは驚いた(テレビで知った)。背景に大阪城、釜の下には燃え盛る炎を迫力たっぷりに描いている。釜の中の五右衛門は、共に処刑される我が子を少しでも苦しませまいと、絶命の瞬間まで両手で高く抱え上げたという。親子愛をテーマとし、青森ねぶたにも取り上げられた奇抜な構想であった。 

(ページ内公開)

盛岡か組『風流 楼門五三桐』  日詰一番組『風流 五右衛門参上』

本項掲載:石鳥谷下組H18・沼宮内大町組H11・秋田県角館町「楼門五三桐」の白酒売り・久慈市巽町組『五右衛門釜茹で』



文責・写真:山屋 賢一


山屋賢一 保管資料一覧
提供できる写真 閲覧できる写真 絵紙
楼門 沼宮内大町組(本項2枚目)
石鳥谷下組(本項1枚目)
盛岡か組
日詰上組(本項3枚目)

秋田角館@A
秋田角館
山形新庄
沼宮内大町組
石鳥谷下組(手拭)
盛岡か組
日詰上組(手拭)
巡礼秀吉 石鳥谷下組
盛岡か組
日詰上組
秋田角館(本項4枚目)
山形新庄
大阪城 日詰一番組

岩手久慈
日詰一番組
釜茹で 岩手久慈(本項5枚目) 二戸在八

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(音頭)

黒のどてらに 百日鬘(ひゃくにちかつら) 五右衛門見得の 五三桐(ごさんきり)
花の楼門
(さんもん) 轟く声音(こわね) 絶景見降ろし 見得を切る
鷹が知らせる 我が身のさだめ 二人の親の 敵討ち
盗人五右衛門 仇討ち誓い 粋な姿で 見得を切る
京の楼門 巡礼
(じゅんれい)真柴 石川尽きぬと 歌をかけ
ともに盗人 五右衛門真柴 今は敵
(かたき)の 竹馬友(ちくばとも)
投げる小柄
(こづか)に 込めたる無念 受ける久吉 御報謝(ごほうしゃ)
真柴遍路
(へんろ)に 姿を変えて 恨みの小柄 受けて立つ

奢る
(おごる)天守の 豊太閤(ほうたいこう)に 凧で仕掛けた 大勝負
盛る浪花
(なにわ)の 嵐の夜に 天を盗(と)らんと 凧に乗る


『五右衛門の釜茹で』岩手県久慈市


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