山屋の雑記帳 沼宮内2011

 



 山車とは気配りなのだなあと思う。極端な話、在りさえすれば用が足る物をどれだけ作り込むかが山車にとっての勝負であるし、それが山車の良い悪いを決める。どこまで見る側に資するよう設置し、美しく面白く見せるか。それは単に見る側への配慮にとどまらず、大げさに言えば巴御前や加藤清正など題材とした人物に対しての敬意でもあるだろう。
 努力の末に気配りが在れば、ほぼ無限にこだわりが現れる。それが山車の深さであり難しさであり、面白さである。


巴御前の奇跡

馬の大きさと人形の大きさがぴったり

男勝りの 大薙刀で 迫る敵将 ひとつぶし
敗れ落ちゆく さだめも知らず 光る馬上の 女武者


 極端だが、人形に手足があるのも頭があるのも全て意味があるからなのだと感じた。動作にもほんのわずかな手付きにさえも、考え吟味を重ねることで明瞭な意義が出てくるのだろう。巴の構えは誰もかなわない強者な印象を与えつつ、まるで蝶が飛び立つような女武者ならではの華やかさ。相手の武者は馬の下にしっかりと踏みつけられ、それでも必死で取りすがろうという確かな距離感がある。掲げた薙刀の端が松を貫く快さ、めくれ上がる羽織の意気の良さ。止まったままでも充分な躍動を示しつつ、動き出せば全ての角度・距離感で見所があり、いつまで見ても見尽きることがない出色の出来であった。見返しは桜の赤に映える色味で豪華であり、間に合わせでない本格的な人形を見返しに短縮したこの組ならではの諧謔が何とも面白い。






清正、大健闘

最後まで、こちらを大判にしたくて悩みました

遥か異国に 轟くほどの 虎を退治た 其の武名
槍の構えに 剥き出す牙を 縞を逆立て 猛る虎


 実に自然な体勢で槍を構えているなと感じた。顔も清正らしく、虎側から見ると動きがあってすごくかっこいい。槍の反対に回ると、人形の背丈が上手に山車のスペースを埋めているのに気付く。虎は大きくて立派だが、つるつるした質感がもう少し隠せていれば尚良かった。背景の竹は、枝があって色が明るければもっとよく見えると思うが、槍の反対から見た時所々に飛び出していて面白い。見返しは薄暮の時間帯が一番綺麗、藤娘らしい藤の演出があれば新鮮な魅力が出たと思う。
 




山車らしい義経

動いて魂が入るのは、山車ならではの魅力

すがた凛々しや 搦め手攻めの 九郎馬上に 花と咲く
谷に見下ろす 平家の陣屋 嵐起こすか 逆落とし


 格好良くはないし、バランスも決して良くはないのだが、表裏とも動き出すと何ともいえない魅力を放つ。あの馬が、山車が動けばまるで滑り出すように動き出す。義経も、馬にぴったりな大きさに見えてくる。静御前の不思議な手付きも、なんだかとても格好良く冴えが出て見える。何より、山車全体がすごく大きく見えるのだ。鎧の色味が明るく華やかで、背景を飾らず岩肌にしているため表裏の人形の華やかさが十二分に演出されている。惜しむらくは、弓にどこから見ても義経の顔を隠さないような親切さがない。照明は昔から変わらない沼宮内の風合いで、一番私好みだった。





丁寧な毛剃

技術の高さは随所に

花の舞台に 漕ぎ出す船を 上げる歌舞伎の 意気の良さ
毛剃九右衛門 波間に驕り あばれ舫を 切り落とす


 手足から着物から非常に端正であるし、特にも船端に上げた足は非常に美しい。今回は特に桜が大胆に広がり、山車全体のバランスも良かった。顔が優しすぎるのと、なぜか船が進んで見えないのと、鉞側からの眺めが単調なのと、見返しが今ひとつ盛り上がりに欠けるのと…、下手ではないが、上品すぎて面白くない。





意表の四つ車

足らざる部分は発想で十二分にカバー


 下手だが、面白い。大八の着物が今までになく派手で、火消しの半纏も柄が細部まで粋であったし、道具関係が皆素材を隠して仕上げてあって立派であった。大八は腕が短く構えも半端で惜しい、火消しはせっかく目線が外れたのに安定しすぎな体勢で惜しい、梯子は立派なのに設置位置が良くない…様々な部分をもっともっと思い切って作ってみて良かったのだと思う。見返しは前に倒して付いているのが面白く、電気が入ると月夜に星が出るのがなかなか良かった。





…やはり今年も欲張りですみません

心ゆくまで、珠玉の山車を


(管理人連絡先:sutekinaomaturi@hotmail.co.jp)
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