八幡太郎義家・ゆはずの泉
北上川は岩手・宮城の両県を縦断し太平洋に注ぐ大河である。岩手に住む私たちにとってかけがえのない北上川がどうやって出来たのか、遠く前九年合戦の昔から語り継がれる浪漫溢れる伝説がある。 源義家(みなもとの よしいえ)が安倍一族を討伐するため奥州を行軍していた時、日照りが続いて30日近くも雨が降らなかった。水を求める兵士たちがわが身を傷つけて、血潮をすすり唇を潤すほどの酷い有様であったという。義家は日頃から中国の故事をよく勉強していたので、国のために戦っていた或る武将がやはり自分と同じように水源に渇し、岩に剣を刺して水源を得たとの逸話を、この時ふと思い出した。「自らもまた朝廷に逆らう逆賊を討つ身であるから、同じように神の賜う泉にお縋りしよう。」義家は、大きな杉の根本の岩に自分の弓をつきたてた。すると岩の間から、こんこんと清水が湧き出したのである。この清水こそ、岩手郡岩手町の御堂観音に残る「ゆはずの泉」であり、「北東北の大動脈」北上川の源流である。ゆはずとは、弦を絡める弓の先端を指す言葉で、義家がゆはずを刺して得た泉であることから、地元では北上川の源をこう呼んでいる。 校歌に「ゆはずの泉」を歌うという岩手町沼宮内では、大町組が弓をひく義家を『ゆはずの泉』として一体飾りで作った。こうして放った矢が「矢止めの杉」の根本に刺さり、其処をゆはずで突いて泉を得たとの逸話による構図であり、後に紫波町日詰でも趣向を写した。東北新幹線が沼宮内まで開通した平成14年にも、開業式にて義家の山車が運行された。 沼宮内の山車にはこのほか、見返しに御堂観音の矢止めの杉を再現した作品もある。 義家は、後に藤原三代の始祖となる藤原清衡(ふじわらの きよひら)を支援し、弟の清原家衡(きよはらの いえひら)を攻めた(後三年合戦)。家衡が長い草のたくさん生えた藪の中で義家を待ち伏せしていたところ、義家は空を見上げて、行く雁の隊列が急に乱れたことに気がついた。人目につかないように繁みに隠れた伏兵であっても、空を飛ぶ鳥が真上から見れば丸見えで、驚いた鳥がにわかに隊列を乱す。これは義家の師である大江匡房(おおえの まさふさ)が授けた「雁が乱れた茂みには必ず伏兵がいる」という中国の故事に、まさに符合する光景であった。勉強家の義家はまたしても見事に伏兵の存在を見抜き、逆に家衡らを火攻めにした。空を仰いで雁を見る馬上の義家が、何度か山車にされている。 義家は「八幡太郎」を名乗る武将なので、盛岡八幡宮をまつる山車祭りにはぴったりの演題であったし、御堂観音にゆかりの深い岩手町にもいまだ馴染みの深い演し物である。 後三年合戦は古戦場である秋田・山形でよく山車に作られる場面であり、前九年を好む盛岡と対照的である。勿来の関の桜を詠む、と題した馬上の義家を背面に描いた山車もあった。青森県の下北半島では、山車の後ろに豪華な刺繍の武者絵を飾るが、後三年合戦に官位を擲って参陣した義家の弟「新羅三郎義光」を縫い込んだものがあった。岩手県内では花巻市・二戸市などで義家の山車がたびたび登場するが、馬上で弓をかざす姿など後三年の場面を連想させるものが主流である。秋田では、実際に逃げ惑う雁の姿を含めて後三年絵巻を飾った曳山が出た。 (ページ内公開) 一戸上町組(富沢) ※すべて同じ絵 (音頭) 神の恵みの 弓はずの泉 尽きぬ流れの 岩手町

馬から下りた義家が、弓を両手に持って泉をうがつ場面の山車である。戦前には、義家の父「源頼義(みなもとの よりよし)」として、従者付きの2体仕立ての山車が出た形跡がある。盛岡の三和会が東北新幹線盛岡開通の年に出した作品が有名で、開通式には鉈屋町の弓流し・駅前の恵比寿と一緒に祝賀運行をした。

(他地域)
泉を穿つ武将の姿は、他の県ではむしろ「源頼義」としてよく登場している。有名どころでは、千葉県佐原市の曳山があり、上にあげた一体ゆはずの山車とまったく同じ構図の人形を乗せている。また、九州の古い山笠絵図にも、従者を付けて泉を穿つ頼義を飾った構想が残っている。「ゆはずの泉」と題が付くのは盛岡地方独特で、他地域の場合、何の場面なのかよく知られていないことも多いようだ。
文責・写真:山屋 賢一
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一戸上町組(本項)
二戸市役所 盛岡城西組
盛岡観光協会
盛岡城西組
ゆはず
盛岡三和会・日詰一番組(本項)
日詰上組
沼宮内大町組@
沼宮内大町組A沼宮内大町組
沼宮内大町組
盛岡三和会(正雄)
沼宮内大町組(香代子)
矢止めの杉
沼宮内ろ組
永承六年 其の名も高き 八幡太郎 陸奥(むつ)へ征く
雁(かり)の乱れに 八幡加護と 攻める義家 敵の陣
ころものたては ほころびにけり 義家放つ 弓強し
鏃(やじり)に満ちる 御神(みかみ)のしるし 突きてゆはずの 泉湧く
北上川の 源(みなもと)清く 弓はずの泉 御堂前(みどうまえ)
神の導(しるべ)を ゆはずで穿つ(うがつ) 流る御堂の 岩清水