盛岡山車の演題【風流 矢の根五郎】
 

矢の根五郎 大町組

 



昭和62年沼宮内稲荷神社祭典山車

 父の仇討ちに闘志を燃やす曽我五郎時致は、みなの浮かれる元日の朝すら来るべき日に備え、富士山を背にしてばかばかしいほど大きな鏑矢の鏃を研いでいる。二本隈車鬢、紅白の格子の着物に蝶の舞う黒どてら、まばゆいほどに荒事歌舞伎の色彩が凝集した市川団十郎歌舞伎十八番『矢の根』の山車である。

 盛岡周辺では通称「矢の根五郎」と呼び、代表的な歌舞伎山車の演題となっている。炬燵櫓に腰をおろして鏃を研ぐ姿は、一体歌舞伎のパイオニアともいうべき盛岡市消防第五分団、紺屋町よ組が工夫した構図である。ここには県北の歌舞伎山車実力派のひとつ、沼宮内の大町組が製作した矢の根の写真2点を載せた。大町組は定型を破った矢の根五郎を作ったこともあるが、昭和62年と平成19年の二回、定型の矢を研ぐ姿を飾っている。背景にはやはり大物の矢を何本か立て掛けるが、大町組はさらに金屏風を後ろにおいて華やかさを演出した。平成に入ってからの第二作には、定型ゆえに計算し尽くした歌舞伎山車の躍動美が感じられる。

平成18年沼宮内稲荷神社祭典山車


 平成に入ってからは、矢研ぎに限らずさまざまなスタイルの矢の根の山車が登場するようになった。決して古びない、安定した人気を誇る演し物である。盛岡歌舞伎山車の豪華絢爛たる有様を象徴する一演題として、これからも数々、秀作が登場することだろう。

 



文責・写真:山屋 賢一

(音頭 名句撰)

歌舞伎舞台に 迫り出す華は 矢の根五郎の 艶姿  よ組(盛岡市)
梅の香ゆかし 矢の根の五郎 黒に揚葉の 蝶が舞う
  盛岡観光協会(盛岡市)ほか
蝶も華やか 襷は仁王 矢の根五郎の 見得の良さ
  さ組(盛岡市)
五郎のつらね 大薩摩に乗せて 江戸の初春 矢の根曽我
  よ組(盛岡市)
兄の願いを 矢の根に籠めて 四方に睨みの 見得を切る
  上和町組(石鳥谷町)
矢の根切っ先 敵討つ覚悟 好機を見据えて 研ぎ澄ます
  大町組(岩手町)




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