八岐大蛇
あまりにも有名な「古事記」の神話、素戔鳴尊(すさのおのみこと)の八岐大蛇(やまたのおろち)退治を山車に仕立てたものである。
出雲の国には頭が八つに尾は八つ、身体は千条の山河を行くほどの蛇の化け物がいて、いけにえとして毎年娘を喰っていた。天照皇大神(あまてらす おおみかみ)の弟である素戔鳴尊はこの怪物を酒で狂わせて見事に討ち取り、その尾から草薙の剣(くさなぎのつるぎ)を得、生贄にされるはずであった絶世の美女奇稲田姫(くしなだひめ)を得る。日本神話のバイブル「古事記」における最も人気の高い逸話である。
上記の演題名のほか『素戔鳴尊』と紹介されることもあり、平成12年に石鳥谷で出たときは、単に『大蛇退治』という題であった。
神代の「みずら」の髪型に埴輪のようなデザインの白装束、首には勾玉…といった神話演目ならではの出で立ちが面白く、剣も他の演題に用いられるものとは著しくかけ離れた独特の意匠である。盛岡市内では油町の二番組が十八番の演題として何度か採り上げており、酒壺に絡む竜のような頭をした大蛇を剣を構えた髭面のスサノオが睨み返し、首を切ろうとしている場面を作る。
古事記・日本書紀を元とした記紀神話のエピソードの取材が、盛岡山車の現状を見る限りではほぼ皆無に近いのが不思議である。この演題を除いて、近年では神代の伝説は全く描かれていない。要因の一つに、神楽など他の手段によってこれらを語ることがすでに補われていることが考えられる。盛岡八幡宮で祭典期間中に奉納される「宮崎神楽」には、天孫降臨、天岩戸、大蛇退治など記紀神話を主題とした演目が多く見られる。他地域の山車人形に見られる神話系の演題には、青森ねぶたの『国引き』、花巻山車の『因幡の白兎』など特徴的なものがいくつかあり、新潟中越地震など災害が相次いだ平成17年ころには『鹿島明神の鯰退治』がねぶた・八戸山車・花巻山車など広域で製作された。盛岡山車伝承圏での製作は無い。
(音頭)

文責・写真:山屋 賢一
(桜山神社祭典山車写真:熊谷聖悟氏提供)