盛岡山車の演題【風流 猩猩】
 

猩々

 



日詰一番組平成7年

 猩猩(しょうじょう:表記は猩猩・猩々の両方ある)は中国の伝説に登場する酒の神、神というよりは妖精・霊獣の趣かもしれない。髪が赤く着物も赤く、からだは小柄で常に子供のような笑みを浮かべているという。なぜ赤尽くしかといえば、猩猩は酒好きで、しかもいくら呑んでも酔わない。その分酔った心地で髪さえ赤く染まっているのだという。赤は魔除けの色で、猩猩は行く先々の厄を祓い疫病を除け、幸せを呼び込んでくれる縁起物ともいわれる。

沼宮内の組平成26年

 能や歌舞伎には、親孝行な酒売りが川のほとりで猩猩と酒を酌み交わし、いくら汲んでも酒の尽きない不思議な酒壺を記念に貰い受ける、という筋書きが見られる。盛岡山車に登場するのは専ら、この歌舞伎の猩猩舞である。赤・橙を基調とした華やかな金襴の衣装をまとい、朱の盃(さかずき)と柄杓(ひしゃく)を手にして酒を酌んでいる姿を作る。傍らには緑色の大きな酒壺が据えられ、白で花や波などの模様が入る(酒の銘柄を大書した例もある)。頭には、連獅子の子獅子にかぶせるものと同じ赤毛の鬘をかぶせる。顔はあまり勇ましいものだとそぐわないので、昭和期は、武者の顔の中から出来るだけ穏やかなものを選んで使っていたようである。
 平成に入ると、専用の大きな童顔の頭が使われるようになった(盛岡観光協会平成6年)。これに伴い肌は白塗りになり、他の演し物に無い独特の風情を醸すに至っている。背景は特に設定されてこなかったが、沼宮内のの組が松羽目歌舞伎の舞台にちなみ、勧進帳などに使われる松の絵をバックに飾った。効果的な試みで、当演題ならではの色味を作っている。

 表には、専ら盛岡の酒商組(酒組合)が上げていた演題で、一般の山車組が上げるようになったのは平成に入ってからである。ただし見返しには昭和期から頻繁に上がっており、それこそ酒蔵の宣伝を無理なく織り込む趣向として重宝された。実際の踊りに出てくる柄杓は片手で使えるような長さではなく、猩猩が柄杓を手にする場面は見られない。見返しの場合、これに沿って扇を手にした猩猩が作られたこともあるようだ。髪色は写真からでは判断しづらい部分もあるが、石鳥谷では黒髪の猩猩が見返しに上がっている。見返しならば、少年・若者の頭でも女形の頭でも対応可能である。



(他地域の状況)

青森県八戸市

 他地域で目にした猩猩の山車人形は、青森の弘前・同じくむつ市田名部で、前者は小ぶりな人形をたくさん使って酒盛りの様子を作った賑やかなもの、後者は赤ら顔、屋根の付いた山車の中央に恭しく据えられた御神体である。この2つは更新制を持たない山車人形だが、八戸三社大祭で見返しに上がった更新制の趣向はやはり歌舞伎から採られていて、裃を着けた世話役が大きな柄杓で猩猩に酒を注ぐ趣向であった(写真3枚目)。
 東北を出ると、能を意識した猩猩の山車人形がいくつか見られる。能猩猩の場合は赤い面を持たせたり、鬘とともにある時期はかぶせある時期は外す、というような趣向になるらしい。盛岡山車では猩猩の顔を赤にした例は、現時点では見られない。





文責・写真:山屋 賢一

山屋賢一 保管資料一覧
提供できる写真 閲覧できる写真 絵紙
風流 猩猩 盛岡観光協会・日詰一番組(本項1枚目)
沼宮内の組(本項2枚目)
盛岡酒商組・日詰橋本組 盛岡観光協会(富沢:色刷り)

盛岡酒商組@A(富沢)
見返し 猩猩 石鳥谷中組
石鳥谷下組
盛岡さ組
盛岡一番組@A
盛岡二八会
ご希望の方は sutekinaomaturi@outlook.com へ

(音頭)

汲めども尽きぬ 黄金(こがね)の泉 孝子美談(こうし びだん)に 花添える
(たた)えて尽きぬ 泉の如く 老いも知らざる 壺の酒
今年豊年 五穀は稔
(みの)る 猩々舞(しょうじょうまい)を 舞い遊ぶ
酒は百薬
(ひゃくやく) 長寿を保つ 酔った心で 舞う猩々
壺の美酒
(うまざけ) 飽(あ)かずに呑みて 髪も染まれる 猩々舞い
柄柄杓
(えびしゃく)片手に 見得切る猩々 黄金吹き出る 宝瓶(たからがめ)
秋の稔りに 黄金の稲穂 御代
(みよ)の平和を 祈る猩々







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