岩手県洋野町大野 鳴雷神社祭典

 

 

山車と町並み(19日夜7時頃)

 旧大野村、現洋野町大野の夏祭りは8月17日から3日間行われ、中日には北奥羽ナニャドヤラ大会で県内外(主に岩手県北・青森県南)から踊り組を集める。神輿を出すのは鳴雷神社、お仮屋は雷神社(雷電神社)で、いずれもカミナリ様を祀った珍しい神社である。
 山車は上組と下組(ともに地名)から1台ずつ出る。ナニャドヤラ大会を初めて見に行った年は2台とも八戸借り上げの山車だったが、近年はどちらも自前となった。



日程概要

8/16:前夜祭(夕方4時から:山車展示披露会・太鼓競演・花火大会・歌謡ショー)於:久慈平荘
8/17:祭初日(お通り鳴雷神社午後3時30分発)
8/19:最終日(お帰り雷神社午後3時30分発→鳴雷神社午後5時30分着→山車「別れ太鼓」午後7時)


大野の山車

 大野の山車は、神輿行列出発のぎりぎりまで動かない。新興団(上組)は山車小屋を午後3時頃に出発し、太鼓だけたたいて笛は吹かずに鳴雷神社まで山車を引いてきた。いきなり歩み太鼓から入り、停止拍子や出発の音頭は無い。旭光団(下組)は繁華からやや遠いところで山車を作っているらしく、午後2時半過ぎにトラック牽引にて八坂神社付近に山車を持ってきて、隊列を整え囃子をかけて出発する。やはり出発儀礼は無い。こちらは笛が入るが、大太鼓がたたき始めないと吹かない。旋律は八戸三社大祭とほぼ同じである。下組の山車は仕掛けが開く山車だが、集合場面では一度も開かずただただ神社へと急ぐ。
 大野山車の太鼓は前半は南部流だが、後半はアレンジされている。八戸の笛に合うので、たぶん八戸に近いのだろう。「あんたがたどこさ」のようなメロディーを「テロレ」とか「レロレ」と聞こえる口拍子でたどる独特の掛け声があり、一通り唱え終わると「イチョイチョイチョナー」と締めくくる。周辺の山車には見られない大野独特の掛け声で、大野山車の盛り上がりはひとえにこの口拍子にあるといえる。大太鼓は一つで着流しで叩き、鉦は無い。県北部の通例であるが、大野でも太鼓類は全て山車の前に集める。
 2台とも山車の下を注連縄で囲み、優勝旗様の組旗が前の部分に左右に一本ずつ差し込まれている。これは他地域の提灯に該当するものであろうか。人形は八戸とは違い、ひとつずつ自前で彫り上げたように見える。
 下組が出した波山車には草木の飾りは一切無く、八戸と同様に波板を何枚も重ねて海を表現し、ご祝儀はその上から掲示していた。仕掛けは上に人形が1つ上がり、旗を貼った波板が起き上がるというもので、お通りの際には「あげろ!」と運行役が指示して、電線をくぐるたびに開いて見せる。横旗は応援旗のように振り回し、金棒引きが行列を先導する。照明付きで、波板の所々に青白いフラッシュライトが付いていた。
 上組の山車は笹や桜や紅葉を咲かせた風流山車で全面固定、左右に少し広がる程度で大きさは変わらない。お通りの時は笛を吹くが、八戸の笛とは違うマイナーな旋律を吹いている(あまりよく聞こえなかったが、「テロレ、レロレ」の唱え言葉と同じ旋律のようであった)。横旗や金棒が付かないこともある。照明付きで雪洞や行灯もあり、小規模ながら彩色彫刻も飾られ、全体によくまとめられた美しい山車であった。ご祝儀を書くためのスペースを山車の最下部に扇形に切り出していて美しい。
 運行の様子からは、旭光団のほうが垢抜けしていて現代風な盛り上げを図っており、新興団はあくまで古色を遵守した飾りの少ない引き方をしているように感じる。双方それぞれに魅力がある。

新興団『太神楽』、左に見えるのがナニャドヤラ大会の歓迎看板

大野村へ

 大野村には3度行った。はじめはおおのキャンパスでの駒踊り大会、当時は地理に疎いこともあって、二戸駅からタクシーに大枚をはたいて行った。次はナニャドヤラ大会に知人の車で行った。大会はパレードとステージ発表で構成され、メインストリートには立派な幟が何本も立っている。神社の隣が学校で、ナニャドヤラ大会では校庭をステージ発表会場とする。見に行った年は雨でドロドロで大変だった。大会に出場する全ての踊り組について、立派な看板を作ってずらりと掲示しているのが何とも壮観であった。
 神社に立つ幟が白地でなくて、赤や青に白抜きで神社の名前を書いているのが珍しい(久慈地域では割合多くこのタイプの幟が見られる)。鳴雷神社はなかなか立派な作りで境内も広く、向かいが陸中大野駅(バス発着所・ふるさと物産館)となっている。メインストリートはこの神社の参道・門前町であり、お祭りでは的屋がたくさん出て人出も多い。橋を渡って雷神社界隈には地元商店の出店が並ぶ。交通規制のかからないこの通りの奥に、臨時のバス停が置かれる。
 大野へは久慈駅前からバスが出ている。昼ごろの一本を逃すと夕方までバスは無い。久慈市を出て洋野町に入ったあたりから、各家に1つずつピンクと白の縦縞模様の提灯がかかっているのが見えた。盆提灯なのか祭りの提灯なのかは不明だが、家紋とか家名でなく地域の名前が入った提灯である。だいたい50分くらいで陸中大野駅に着く。途中、バス停「坂の上」の手前に新興団の山車小屋がある。

祭りの日一日・おおの駒踊り

おおの駒踊りの路上演舞

 昼過ぎに大野に着いたが、まだ人出は少なく、町はひっそりしていた。大野には雑貨屋や食べ物屋と兼業した定食屋が多く、昔映画館だったことをうかがわせる看板が食堂の軒に残っていたりする。昔ながらの立派な旧家が散見され、商店の佇まいも昔の大店の趣があって見事だ。きっと昔は大変栄えた町なのだろうなと思うし、現在訪れる者にとってはそのレトロ感が嬉しい。午後2時のちょっと前頃、神社の奥の方から駒踊りの太鼓が聞こえた。
 大野の駒踊りは、岩手県内主要駒踊り団体の師匠に当たる格式高い踊り組で、鳴雷神社で神輿渡御を始めた年に既に祭りに伴われていたという。夏祭りでは先触れのような役で、歩み太鼓を鳴らしながら通りを一回りする。駒はとても立派で、背中には旗を2本、交差して差している。笛吹きは浴衣に襷を掛けた粋な出で立ちで、最後尾には真ん中に鉦を吊った太鼓をたたく鉦打ちがいる。村の外で見るおおの駒踊りはただ歩くだけの踊りという印象でいまいちパッとしないのだが、大野では祭りの花形であり大変人気がある。「駒踊り」というお菓子も売られているほどである。たしかに現地で見るとお囃子も踊りも変化があり、何より子供たちが元気で大変見応えがした。先触れに廻りながら門付けで踊りを披露し、お通りに随行する際も頻繁に輪踊りを見せてくれる。行列解散後も、盛んに門付けに回って歓迎されている。
 お通りは非常にゆっくりと進む。行列の先頭では、神主が頻繁に立ち止まって街路をお祓いする。続く芸能も、頻繁に踊りを見せる。神楽は頭は一つだがお囃子方はたくさんいて、大変激しい歯打ちをし体を四方に倒すなど凄味がある。神輿が通った後は駒踊り、手踊り、ナニャドヤラ、大野小唄、山車を挟んでYOSAKOIソーランが続いた。大野盆太鼓の幟を立てたナニャドヤラは男女の掛け合う歌が面白く、ついつい追いかけて聞き入ってしまう。踊りが無表情なのも不思議な感じがして面白いし、腰をスッと据えて足を軽く上げ動作を鮮やかに見せるなど、少人数ながら本場ならではの質の高い芸を見せている。大野の観衆はとにかく踊りの類に盛んに喝采を送るので、行列が進むごとにどんどん高揚感が増していく。昔は太神楽や虎舞など、まだまだたくさんお供の芸能があったらしいが(たびたび山車人形に片鱗を覗かせている)、ここからもかつての大野の繁栄振りが十二分に想像できる。新旧織り交ぜた芸能の行列は、素朴ながら賑やかなお祭りの風情を感じさせてくれた。
 神輿が雷神社に着くと、駒踊りやナニャドヤラが鳥居の中に入って踊りを奉納する。山車は横並びになって休憩に入る。

旭光団『常陸坊海尊』


 最終日のお還りもコースを逆にしてほぼ同日程で行われるが、最初に交通規制のかからない通りを回る分観客が少なめなので、じっくり踊りや山車が見られそうではある。前述した掛け声に加えて、民謡か盆唄か定かではないが、そういう唄をかけながら山車を引っ張る。下組は先導役が歌うが、上組では唄専門にお婆さんを山車に乗せていた。これは進行中に沖上げ音頭を歌う以上に違和感があり初見の者には異様な雰囲気であるが、確かに盛り上がりがあって良く山車行列に馴染んでいる。山車が2台とも神社を通り過ぎた後はいったん休憩し、夜の帳が下りた午後7時ころ、ふるさと物産館前で2台の山車が「別れ太鼓」を交わすのだという。白色球を使った電飾もまた、工夫があって華麗であった。
 交通規制解除は午後9時というから、まだまだ大野の町は祭りの夜を楽しむのであろう。


 

鳴雷神社祭典山車歴代演題
見物年
(文献調査年)
新興団 旭光団
(昭和49年) 龍虎 牛若丸と弁慶
(昭和52年) 恵比須大黒
(昭和53年) 川中島の戦 絹糸の滝
(昭和54年) 加藤清正の虎退治 桃太郎の鬼退治
(昭和55年) 義経八艘飛び 岩見重太郎
(昭和56年) 金太郎の鯉退治 曽我兄弟
(昭和57年) 一寸法師 加藤清正
(昭和58年) (日蓮)
(昭和62年) 一ノ谷の戦 秀吉出陣の場
(昭和63年) 加藤清正虎退治 八俣の大蛇退治の場
(平成元年)
※向田幼年少年消防クラブ『かぐや姫』
四神と七福
(平成2年) (船弁慶) 四神
(平成8年) 宝船 鏡獅子
(平成9年) 怨霊知盛
(平成10年) さるかに合戦(二戸平三人形)
平成15年 一寸法師/打ち出の小槌(八戸上組町借上) 酒呑童子/土蜘蛛(八戸十六日町借上)
(平成16年) 義経八艘飛び 悪霊虎退治
(平成17年) 一寸法師 弁慶の立往生(八戸吹上一部借上)
(平成18年) 新 龍神・雷神 頼光の土蜘蛛退治
(平成19年) 新 八岐の大蛇 乱闘の場 戦国最強軍師 山本勘助(八戸吹上一部借上)
(平成20年) 源平合戦 那須与一平家を射る 南部光経・大野将光 秋田征伐奮戦の場
(平成21年) 龍虎 義経頼朝愛憎決戦 決戦壇ノ浦 義経の八艘飛び
平成22年 四神と宝船/太神楽 屋島の戦い 那須与一の扇矢物語/常陸坊海尊
平成23年 かぐや姫/三陸豊漁 幸せを呼ぶおおの駒踊り/おおの虎舞
(平成24年) 源頼光土蜘蛛退治 九戸の乱 嗚呼九戸党 大野の猛将大野弥五郎記/大野消防組初代組頭 晴山吉松
(平成25年) 陰陽師安倍晴明 平安妖絵巻 船弁慶
(平成26年) 桃太郎 かぐや姫

(平成22・23年見物/参照:広報おおの・広報ひろの)

アクセス:三陸鉄道およびJR八戸線久慈駅からバス接続(陸中大野行き)/青森県八戸市からもアクセスあり

※八戸三社大祭と周辺の山車行事

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