岩手県花巻市 大迫三社大祭

 



夜間の山車(平成19年下若組:提供写真)
 大迫三社大祭は、稗貫郡大迫町の秋のお祭りです。町内の愛宕神社(上町)、金比羅神社(下町)、早池峰神社(川原町)の三社が合同で神輿渡御を行い、郷土芸能の早池峰神楽などがお供をします。極稀にこの行列に風流山車が加わることがあります。
 大迫の山車といえば、お盆のアンドン供養山車があります。アンドン山車も盛岡山車の異伝ではありますが、秋の山車のほうがより直接的に、本格的な盛岡人形山車の形態を伝えています。年2回の山車祭りというのはなかなか大変で、毎年奉納というわけにはいかないようですが、筆者は幸運にも見物の機会に恵まれました。なかなか出ない三社大祭の山車のほうを、大迫では特に「アキダシ」と呼んでいるそうです。

 平成19年は実に17年ぶりに、大迫の「秋山車」が複数台出ました。たくさんの観客でわいわい賑わうようなことはないものの、町内の皆さんに山車は大変喜ばれ、みな軒先に出てきて山車をじっくりと楽しんでいました。
 お囃子や音頭の作法はアンドン祭りのときとまったく同じですが、金棒引きの随行など秋山車ならではのものも加わり、一味厳粛さが加わります。神輿のお供を終えると一斉に音頭上げが行われ、山車はなかなか進みません。どこの家も相応の協力をして、みんなで山車行事を支えているということでしょう。大迫名物の「小栗判官」(扇子踊りがつく民謡のような長い音頭上げ)や各種余興も大変喜ばれていました。

平成19年の上若組見返し
 上若組は平成2年以来17年ぶりの奉納、いろいろと準備に苦心されたそうですが、努力が実って大変立派な山車に出来上がりました。人形は盛岡借り上げの矢の根五郎、現地でかなり貫禄のある大振り人形に見えたものが、大迫では足場を高く設定して上に上げないとバランスがとれないくらい小振りに見える不思議。具体的な尺は伏せますが、大迫の秋山車は盛岡の山車と比べて相当背が高いのです。秋山車の面白いのは、この高さの違いを実にさまざまな飾りでもって是正しようとしているところ。桜はもちろん岩やら滝やらいろいろ突っ込んで空いたところを埋めている。どことなく花巻や東和町の山車の雰囲気、あるいは気仙の館山車の雰囲気すら感じる、すごく独特な飾り方でした、少なくとも盛岡山車という視点で見るならば。他地域であえて抑えているようなわかりやすい派手さを前面に出した山車、ともいえそうです。写真に挙げた花咲か爺さんの演出を見ていただくと、なんとなく筆者の言わんとしていることを感じていただけるのではないでしょうか。

 絵紙も町によってまちまち。下若組は山車の絵柄を染めた手拭で、石鳥谷の手拭のように紙番付に似せた帯が付いています。上若組は、17年前はどうだったかわかりませんが、当年はカラーの山車絵、厚紙に刷り込んだものを折らずに配っていました。平成17年に出た川若組の助六がどんな絵紙を出したのかも気になるところです。アンドン山車を出す組にはほかに若衆組がありますが、今のところ秋山車は出していないようです。
 下若組も盛岡からの借り上げで、人形は熊谷次郎。定番見返しの花咲爺も借り上げたため、2つの山車で同じ見返しという珍現象となりました。上若も下若も表裏に組の名を示す立て札を立てるのが特徴なようで、演題札は飾りの中に立てるのではなく太鼓設置位置に近づけて飾っています。下若組の場合は人形の設置位置は変えず、角度を変えました。やはり盛岡で一番てっぺんに上がった軍扇がかなり普通の位置に。馬も角度をつけたので、敦盛を呼び戻す静かな雰囲気が、合戦場を疾駆する勇壮な雰囲気に変わりました。枝垂れ桜といっても、こういう枝垂れは大迫じゃなければ見られない。見返しは滝を作ったり、桜の樹もかなり大きくなって見栄えが変りました。

平成19年の下若組見返し




 山車は大体11時ころに出庫して、夜は7時半ごろまで動くそうです。警察には一応9時まで許可を取っているそうです。夜は牡丹に電球を入れたりということはなく、素朴な照らし方で電飾。上若組は表裏に何球か裸電球を吊るしただけで、あとは町の灯りにお任せ。そういうのもまたのんびりしていていいのかも知れません。
 



文責・写真:山屋 賢一

(平成18・19年見物)

平成18年の下若組『勧進帳』

※お盆のアンドン祭りへ


※南部流風流山車行事全事例


(平成17年は見物しそびれました)

平成17年の川若組『助六』(提供写真)
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