沼宮内稲荷神社例大祭2014・山車百年祭

 



 良いものから先に出すというこのサイトのシステムを、久々に後悔した。


 の  組 猩  猩/養老の滝 

色のまとまりが実に不思議で上手い。風貌も不思議である。体勢は、絵紙の解釈としては最大限に上手くいっている。杯と瓶の柄が不満だが、見物客として目を見開くことが一番多かった

灘の造りと 讃えし酒も 今は岩手の 里造り
秋の実りに 黄金の稲穂 御代の平和を 祈る猩猩

※南部流風流山車『猩々』

 
人形の良さを非常に感じる出来で、紅葉も上手い。設置位置の低さが課題

 ともに、専ら酒組合の演し物として使われてきた場面で、特に表については、今後酒組合で山車を仕立てる可能性を考えると風前の灯に近い演題といえる。
 酒の国の妖精 猩々は孝行者に「湛えて尽きない泉のように」無限に酒の湧く瓶を授ける。養老の滝の話もほぼ同じで、孝行者は神の恵みで滝の水を酒に変えてもらう。ともに自ら嗜む酒ではない。親を労り恩を返す酒である。



 





 愛 宕 組 日本振袖始/因幡の白兎 

背丈の差は「紅葉狩」(平成6年)のオマージュかとも思える。端正な尊の魅力が光る一台

酒槽揃えて 八塩折之酒醸し おろちあらわる 時を待つ
大蛇退治の 神代のはなし くしを捧げて 祀る山車

※南部流風流山車『やまたのおろち・日本振袖始』

 
題材として採ったこと自体が相当画期的、物語を描くにはまだまだ工夫の余地あり

 八岐大蛇退治の歌舞伎「日本振袖始」が複数地域の山車祭りに登場し話題をさらったのは2年前、今回はハバキリ・トツカの二振りを尊が携え、両者の狭間の酒壺からは妖しい煙がたつ演出。見返しは花巻地方では度々目にするが、盛岡山車エリアではおそらく初。皮を剥かれた哀れな兎を蒲の穂で癒す、優しい神様の話である。
 奇しくもこの山車の趣向が、表裏とも下の6台目記念山車と合致しているのが面白い。


 

沼宮内山車百年記念『八岐大蛇/大黒舞』
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 大 町 組 矢の根/藤 娘 

従来の沼宮内に無い色味、距離が変わるごとに表情変化を見せる実に見飽きない山車であった

歌舞伎舞台に せりだす花は 矢の根五郎の あで姿
(見返し) 包む絵すがた こころも恋も むらさき染めて 藤の花

※南部流風流山車『矢の根五郎』

 
こういうふうに見える一瞬前が一番ぐっとくる。構図の妙味を生かしきった秀作

磨きに磨いた 十八番を飾る 自慢のわざを 謳いつつ
 大町組は昭和60年から自前の人形飾りを仕立て始めた。歴代演題の中で最もよく採っているのがこの矢の根五郎で、通算4回目と他を圧倒、実は沼宮内ではこの組しか矢の根を自作していない。
 お祝い事にふさわしい華やかさ・荒事歌舞伎に根付く勇みと、勇みのみで終始しない舞ならではの軽やかさ。現在、大町組の上手さを最もよく引き出す演題がこれである。

色にも着物にも工夫が見える。淡い色彩で派手に、というのは上品でよい


 





 ろ  組 朝比奈三郎/十五夜 

手が長いので大男にも見えるが、大男にしては足が短くも見える。昼間は門がまっ黄色なのが変に見えるが、夜は黄色だからこそ映える。いずれ、新しい

投げ打つ敷き石 響きも高く 薫る誉れの 朝桜
(見返し) 秋の夜空に 光を放ち 芒照らす夜 名月夜

※南部流風流山車『朝比奈三郎』

 
見返しも風景・女物・物語・新作とバラエティー豊かに揃った

 眼目の門を破る勢いは十分に伝わる。風貌もそれを引き立て余りある。とにかく色味がすごいが、よく見れば絵紙通りの配色なのに驚いた。
 夕闇が深まるにつれガンガン存在感を増す、とりわけ大ぶりの山車であった。



 





 新 町 組 森蘭丸/鯉の滝登り 

3つが3つとも小姓の着物である必要はなく、腕や足を出す仕立て方なら、やはり寝間着に襷掛けが適切な表現だったと思う。力作だけに、出した年が良くなかった

天正十年 最後の大義 主君守りて 花と散る
(見返し) 立身出世の 願いを込めて 登りの鯉は 滝となる

※南部流風流山車『森蘭丸』

 
この見栄えが写真でしか知らないかつての新町蘭丸を思わせる

謀叛の大事に身を朝露と 散らす若武者 凛として
 今シーズンの蘭丸3作では最も槍の角度が急で、鬼気迫る迫力の場面取りである。「蘭丸は遠目で見た時によくわからないのが難だ」と思いかけていたが、夜の通りに現れた新町の蘭丸は、遠目からも十分な破壊力を備えていた。他を圧する大人形ゆえのことである。

手がかかる演題だから、見返しはこれでも仕方がないのかも、いや、ちゃんと新物を見たいな


 





※正式な演題名はこちらで


※各山車について管理人の思うところは、下記機会にてお話しいたします。

岩手県立博物館日曜講座「県博で山車を見る会」 講師:山屋賢一
11月9日(日)13:30〜 岩手県立博物館(盛岡市上田松屋敷34)講堂にて

管理人連絡先:yamaya@iwapmus.jp / sutekinaomaturi@outlook.com
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