京を震わす 怪しの声音 三位頼政 鵺退治
跳ねる大鯛 祝いの飛沫 溢る黄金の えびす顔
●鵺退治と史実の頼政
平安の昔、夜毎内裏に黒雲が現れて帝を悩ませていた。東三条を守る弓矢の名手源頼政(みなもとの よりまさ)が雲に向かって矢を放つと、中から頭は猿、体は狸、手足は虎、尾は蛇という奇怪な化け物が落ちてきた。鵺(ぬえ)というこの化け物の眉間に頼政の矢は見事に命中しており、その日を境に黒雲の襲来は止んだという。
鵺とは要するに得体の知れないものということであるから、武家のくせに公家のまねをするような平家一門を暗に示している。頼政は保元・平治の乱で源氏の嫡流が没落した後、長らく平家に仕えていた。が、晩年になって俄かに反旗を翻し、以仁王を担ぎ出して全国の源氏一族に挙兵を呼びかけたのである。自身は平知盛ら討伐軍と戦い、宇治の平等院で自害している。鵺退治の伝説は、平家の奢り高ぶりに反乱の一矢を報いた頼政への、敬意と鎮魂の逸話といえるかもしれない。
すさぶ都の 鬼討ち倒し 朱雀大路に 光差す
綱の大太刀 一振りかざし 夜叉を退治の 羅生門
●現れ、消えていく「異形」
平安京には、権力抗争に敗れ非業の死を遂げた多くの人々の怨みが夜な夜な渦巻いているので、内裏は恐れるあまり夜も眠れない。そこで源頼光(みなもとの らいこう)は、四天王の渡辺綱(わたなべの つな)に命じて京の入り口の羅生門(らしょうもん)を警備させる。綱が羅生門に立ち入り禁止の札を立てて辺りを睨んでいると、突如天運が掻き曇り、どこからともなく荒々しい鬼の手が現れて綱の兜に組み付いた。兜ごと、綱の首を捻じ切ろうとする。この山車は、鬼と綱が対峙する緊迫した一瞬を切り取ったものだ。綱は恐れることもなく腰の名刀髭切りを抜き放つや、兜にかかる鬼の腕を斬り落とし、鬼はぎゃあっとこの世のものでない悲鳴を上げて黒雲の中に消えた。鬼の残した片腕を、綱は武勲の証として屋敷に持ち帰った。
六日六晩の後、一人の老婆が綱の屋敷を訪れる。自身の老いを散々嘆いた老婆は、冥土の土産に鬼の手を見せろと綱に泣き縋る。はじめはかたくなに拒否した綱だったが、ついに根負けして鬼の腕の入った唐櫃(からびつ)を開いた。とたん、辺りには俄かに黒雲が沸き立ち、老婆は鬼の正体をあらわして腕を奪い返すと、そのまま深い暗闇の底に消えていった。
花は牡丹か 蝶舞う園に 競う紅白 獅子頭
千年万年 長寿を保ち 福を呼び込む 鶴と亀
龍虎相搏つ 川中島の 川霧切って 太刀白し
遺恨十年 朝霧ついて 智将武田の 本陣(たて)に飛ぶ
の 組
早川鮎之介/アテルイ 演題紹介
おどる若鮎 流れを止めて 若き勇士の 名を残す
光る早川 名の「介」の字に 逸る尼子の 十勇士
古代、奥州は朝廷の支配に服さない「まつろわぬ民」の地であった。アテルイはエミシ一党を束ね、郷土を侵さんとする朝廷軍を寡勢で翻弄、実に38年にわたって戦い抜いた東北の英雄である。この山車では、アテルイを少年に、アテルイを破った将軍坂上田村麻呂を竜に見立て、果敢に挑むアテルイの心意気を示している。
文責・写真:山屋 賢一(見物日:10月2・4日)
※一部写真を読者様よりいただきました。御礼申し上げます。