北東北の田植え踊りいろいろ
1、座敷田植踊り(岩手県内陸中央部)
岩手県央部の岩手郡や紫波郡には、芝居のように屋内で演じられる田植踊りが伝承しており、これは「座敷田植踊り」と呼ばれ他の地方には見られない特異なものといわれている。流れとしては、まず前口上から始まって、めでたい席には欠かせない三番叟(筆者いわく「喜びあれや系三番」)、苗代拵えに始まる一連の田植の様子を鮮やかに描き、子供たちが綾棒を持って舞台の四方を駆け回る中踊りと、それに続く笠をかぶった早乙女の舞でクライマックスを迎える。全て演じると2日も3日もかかるといわれる農民の小正月の娯楽であった。
座敷田植え踊りに類する芸能には大きく分けて2つの流れがあるように思われるので、ここではその分類に基づいて紹介したい。
山屋タイプの座敷舞
・山屋の田植踊(
確認演目:『道太鼓』『前口上』『三番そう』『苗代作り』『五穀下しと種蒔き』『仲踊』『仲踊と早乙女』『早苗振支度』
確認日時:紫波中央駅開通記念式典(98.3.14
特記事項:紫波・岩手両郡の座敷田植踊りに見られるほぼすべての趣向を伝承している踊り組。女装の青年が演じる早乙女は『苗代作り』では女舞をこっけいに演じ、『笠振り』では一転して足を閉じたまま頭・上半身を振るう激しい踊りを見せる。早池峰神楽の翁を真似た豊受大神の舞(『五穀下し』)が独特。口上の出囃子は早池峰神楽風である。『三番そう』は踊り手の反り返り方、囃子の歯切れのよさ、踊りの前後に烏帽子の先で「大入り」と書くところなど、見所が多い。後述する「大沢系」の座敷田植えに見られる早乙女の振りは、『早苗振支度』で登場するが、この演目は一八と裏声を使って話すカカアとの掛け合いがメインであり、早乙女の踊りは脇である。アトラクションなどに呼ばれた場合、「苗代作り」「五穀下しと種蒔き」「仲踊」「仲踊と早乙女」を演じることが多い。
・岡田の田植踊(
確認演目:『早乙女』ほか
確認日時:
特記事項:上記機会以来久しく演じられていない。
・遠山の田植踊(
確認演目:
確認日時:『棒踊り』ほか
特記事項:仲踊り(ここでは棒踊と称す)の静と動の対比が絶妙で、踊り子が動き出すまで(つまり教え太鼓)が非常に長く取られている。早乙女舞の最中に陣痛を起こした一八カカアと一八との掛け合いが入る。
・彦部の田植踊(
確認演目:『車踊り』ほか
確認日時:
特記事項:車踊りは「通常向かい合わせの2列横隊で踊る仲踊りを輪で踊る」とのみ解説されがちだが、教え太鼓がない、囃子がゆるく民謡調、など紫波地方のほかの踊りにない独特さがある。現在は彦部小学校児童によって担われており、直立で踊る比較的動きの小さい踊りで単純な所作が多い。筆者はこの組の笠振り(草乙女舞)を直には見たことがない。学校への伝承の対象外になっている演目が失われてしまうのでは、とちょっと不安に思っている。
・桜町の田植踊(
確認演目:『三番嫂』『中踊り』『仲踊りと早乙女』『撥車』『口上』
確認日時:赤石神社桜祭(00.4.29 赤石神社)・
特記事項:『仲踊りと早乙女』を春の赤石神社桜見祭りと日詰秋祭り、それぞれの宵宮で公演する。早乙女が頑張っているすぐ前で仲踊りを踊るので、全体に見づらいのが難点。『三番嫂』は拍子木のみで囃すのが珍しい。口上の出囃子は山屋の例と同じく早池峰神楽風である。
・黒川の田植踊(
確認演目:『三つ笠振り』ほか
確認日時:盛岡さんさ踊り(00.8.1 中津川原特設ステージ)・もりおか郷土芸能フェスティバル(01.9.2
特記事項:幼児の踊る『三番叟』が烏帽子を斜めにして左右に傾けた後、都合3回お辞儀をする部分が印象的。独自に開発した至芸の『三つ笠振り』は首で笠を振りながら両手に笠を持ち、合計3つの笠を振るというもの。『春田うち』やのしなやかなくねり、腰を落として指先まで綺麗に踊る『仲踊り』が見事だ。『笠振り』含めすべて一八による先導があり、仮面をつけて踊る一八のほかに口上専門の化粧をした一八が登場し、巧みな話術で笑いを取りながら種まきを演じる。
・見前町の田植踊(
確認演目:『種まき』ほか
確認日時:もりおか郷土芸能フェスティバル(01.9.8・05.9.4
特記事項:翁が異様な囃しに乗って踊る種蒔き、一八の一人踊りなどに特色。草乙女は庭引きで一人一人回りながら下がるが、踊り手に腰に補助をつけないと倒れてしまう…といわれるほどに激しい振り方をする。全体に古色が感じられ、紫波地方の座敷田植え踊りの中でも愛好家から高い評価を受けている。
・外谷地の太神楽と田植踊(
確認演目:『早乙女舞』
確認日時:地域文化まつり(02.6.15)
特記事項:太神楽の1演目として庭田植の早乙女舞を演じる稗貫、和賀地方独特の形態。序盤から激しい笠振りの囃子を演奏する。まさに紫波系といった雰囲気の見た目とは裏腹に、大きな笠を振ったりというようなことはあまりやらず手に持った苗などの道具を振る動きが中心となっている。一八がこっけいな腰ぶりで後ろ向きに3人の早乙女を先導する。踊りに入るとなんとも情緒的な田植歌が歌われる。
・西八重畑の田植踊(
確認演目:『種蒔き』『苗取り舞』『中踊り』『早乙女舞』『一八とカカア』『大黒舞』
確認日時:道の駅交流フェスティバル(02.10.14
特記事項:種まき、苗取り舞には太神楽風の雰囲気があり、前者は烏帽子をかぶった大人4人の舞い、後者は子供による歌舞伎踊り風のものである。ともに「拙者種蒔きに参りました」「やあやあ、よく来てくれました」という胴と踊り手との掛け合い、最後は「ごくろうさまでした、それでは家に帰って酒の3杯も飲んでゆっくり休んで下さい」という胴の声がかかる(花巻の湯本田植え踊りに共通する趣向)。早乙女舞などは山屋型の拍子で行われ、2つのメロディーが交互に現れる。
・田植踊り太鼓(
確認日時:
特記事項:早乙女舞の折に披露される胴取りの華やかな曲打ちのみを伝承。どちらかというと後述する岩手郡の座敷田植えの趣よりも、紫波地方のそれに近いものがある。黒紋付の3人の青年が演じていた。
・煙山の田植踊(
確認演目:『早乙女舞』ほか
確認日時:
特記事項:『三番叟』があやつり人形のように動くのが、凄く上手でよかった。岩手郡に座敷田植踊りを伝えた団体といわれている。
・湯本の田植踊(
確認演目:『子供手踊り(他団体でいう「仲踊り」)』『花笠踊り(他団体でいう「早乙女」)』ほか
確認日時:
特記事項:次第は西八重畑と同様に進んでいくが、こちらは太神楽系の囃子ではなく独自のものを据えており、百姓踊りの雰囲気がある。鎌を研ぐ仕草など、スピードで笑いを呼んでいる。早乙女の踊りは花笠が簡略化され踊り自体も軽い印象に仕上がっているが、元の形は明らかに山屋型である。前後に踊られる百姓踊り、稗貫地方の庭田植え的雰囲気と、中に挟まれている厳然とした座敷田植えの地が対照的で、もともと座敷田植の伝承団体と稼踊りの伝承団体が合一したことによるともいわれる。手平鉦ではなく金輪のついた短い棒を振って囃子に鉦の音を取り入れている。
大沢タイプの座敷舞
座敷で踊る田植踊りは、なにも紫波系のみによったものではない。独自の芸風を主張する田植踊り
・黒内の田植踊(
確認演目:『囃子舞』ほか
確認日時:
特記事項:座敷田植踊りの最北端の伝承例。笛のメロディーにどこか懐かしい雰囲気がある。ほっかむりをしておっさんが仲踊りをやる。女性が赤い振袖で舞う囃子舞も見事で、最後は両者が競演する。囃子唄も独特の味がある。
・上鹿妻の田植踊(
確認演目:『御式舞』ほか
確認日時:青少年郷土芸能発表会(01.11.25 岩手県民会館)
特記事項:余芸として囃子舞や折敷舞などを伝承している。
・大沢の田植踊(
確認演目:『早乙女舞』ほか
確認日時:もりおか郷土芸能フェスティバル(02.9.8
特記事項:「そこで拍子を頼みます」との一八の言葉で舞が始まる。早乙女は本当に愛らしい動きをし、最後は客席に顔をみせる。陣羽織を着、頬かむりをして激しく踊る大人の踊りは「馬夫踊り」といい、太刀を使って演じる演目もある。
・葛根田の田植踊(
確認演目:『早乙女舞』ほか
確認日時:
特記事項:「さあさ、休んでくれな 早乙女たち」と一八が声をかけると、早乙女達が採り物を変える。準備ができるのを見計らって、「あまり休んでもなるまい」との声がかかり、再び踊りに入る。
・平笠の田植踊(
確認演目:『早乙女舞』ほか
確認日時:まんぷくそばフェスタ(05.2.20 いわて沼宮内駅構内プラザあい)
特記事項:「そこで拍子を頼みます」と太夫が声をかけて踊り始める。一八に当たる教え踊りの役回りはなく、半纏姿の少年、頬かむりをした少女(早乙女)、笠を被った舞手の3者で演じる。少年の踊りの部分で、鉦ではなく拍子木を使う部分がある。子どもの踊りなので、黒内や太田と比べて動きが単純である。
文責:山屋 賢一