盛岡山車の演題【風流 鍋島騒動・有馬の猫騒動】
 

化け猫の山車

 



『鍋島騒動』盛岡市三ツ割み組平成23年

 盛岡の秋祭りに『鍋島騒動(なべしまそうどう)』の山車が出て、「ジブリの山車だ」と大変話題になった。屏風の上から若武者を覗き込む大きな猫はたしかに可愛らしく、他のいかなる趣向にも無い異彩を放っている。「今年の山車は面白い」と例年になく多くの観衆を楽しませた、大変良くできた山車であった。
 鍋島騒動、俗に「鍋島の化け猫騒動」と呼ばれる怪談であるが、佐賀の戦国大名龍造寺隆信(りゅうぞうじ たかのぶ)が戦場で落命し、江戸期にはその家来筋であった鍋島家に佐賀の統治が委ねられたことに端を発するものである。「家来が目立った抗争を経ずに主家に取って代わったのには、何か裏があるに違いない」「取って代わられた側の龍造寺には、秘められた怨みがあったのではないか」…庶衆の好奇の目が「龍造寺の怨念を背負った飼い猫」との怪談を生み、龍造寺の跡継ぎが鍋島の殿様の暴挙で殺され、その飼い猫が怨みを晴らすべく、殿様の奥方に化けて毎晩殿様を苦しめるという奇想天外な筋書きが作られた。正装で御前に潜み、秘かにあんどんの光に照らされる奥方の姿を見た忠臣が愛槍(あいそう)一閃、屏風の陰の大猫を討つ。何とも印象深いこの場面は平成23年、化け物山車の名手「み組」によって初めて盛岡八幡宮祭典山車の盆に上がったのである。
 化け猫騒動の山車はそれ以前にも、一戸・二戸・沼宮内など県北部の祭典で引かれたことがある。二戸では鍋島騒動、一戸では『有馬(ありま)の猫騒動』として作られた。有馬屋敷の化け猫は旧主でなくいじめられた腰元の怨念を背負って狂い猫となり、人を何人かかみ殺すうちに妖怪となって最後は有馬屋敷お抱え力士の小野川喜三郎(おのがわ きさぶろう)に退治される。場面はやはり屏風の陰から化け猫の首を出して裃姿の侍を添えたもので、有馬騒動の場合は侍に槍ではなく刀を抜かせた。盛岡の仙北町では『風流 小野川喜三郎』として、大猫の半身を下に飾り丹前(たんぜん)姿の喜三郎と対峙させている。

 化け物は下に飾るより上に飾った方が当然目立つのだが、上に来ると構図が不自然になり、しかも全身を描かなくてはならなくなるためボロが出やすい。その点、化け猫の場合は頭と手だけで上に飾っても不自然さが無く、頭だけでよいので頭を大きく作れる。屏風だけでは単調だが、あんどんが一つ入れば舞台に変化が生まれ、且つ猫を打ち消すほどには派手にならない。考えれば考えるほど、これほど娯楽要素を含んだ化け物演題は他にないように思えてくる。
 一戸では、そもそも獰猛な大猫を作ったこと自体が画期的であった。沼宮内では佳境の夜間パレードで、他の電飾を全て落としあんどんの赤い光のみで化け猫を照らしたという。盛岡では猫を上下させ、電飾下では昼の姿からは想像しにくい色に猫の目を光らせた。

 青森にねぶたを見に行った時に初めてこの猫騒動の場面に出会ったのだが、題目も『佐賀の夜桜』などと実に格好良く付けられており、黒石のねぶたでは昼間白かった猫が夜明かりがともると青紫に変わるというねぶたならではの工夫があった。八戸や野辺地の山車にも鍋島騒動が上がったことがあるようだが、有馬騒動は聞いたことがない。

『宮澤賢治 注文の多い料理店』花巻市

 猫退治の山車としては近年、里見八犬伝の化け猫退治がよく採り上げられている。人が化粧した猫であったり、片眼に矢が刺さった猫であったりと、これも他にない工夫がある。花巻まつりの山車として私が一番よく覚えているのは『注文の多い料理店』で、これは宮澤賢治の童話を題材とした山車であった。料理店の主すなわち人を食う猫が、二人の兵隊を松の上から大きな目玉で狙っているのが何ともおかしく、楽しい山車であった。




文責・写真:山屋 賢一


山屋賢一 保管資料一覧
提供できる写真 閲覧できる写真 絵紙
鍋島化け猫騒動 盛岡み組

黒石ねぶた
五所川原ねぶた
盛岡み組
有馬化け猫騒動 盛岡は組
一戸橋中組・紫波町消防団第一分団第二部・沼宮内の組
沼宮内の組
盛岡は組
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(音頭) 有馬の猫騒動:上段/鍋島騒動:下段


花も有馬の 宴
(うたげ)の宵(よい)に 桜御殿(さくら ごてん)の 猫騒動
山車は小野川 力士の誉れ かけ手ひき手に 血が躍る
花の小野川 土俵の外に 残る有馬の 物語
かざす刃
(やいば)に 剥き出す牙を 屏風乗り越す 狂い猫
迫る大猫 息をもつかず 刃抜く手の 勇ましさ
怪猫
(あくま)退治は 力士の誉れ 栄え治まる 有馬舘(ありまたて)

肥前
(ひぜん)鍋島 お家の騒動 今に伝わる 怪談記
静まり夜更けに あらわる猫を 槍で射止めし 本右衛門
(もとえもん)
怪し妖猫
(ようびょう) 屏風の袖に 愛槍(あいそう)構えて 猫退治


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