宮城県加美町 多川稲荷神社初午まつり

 



一部の屋台
 中新田の虎舞は屋根の上に登って踊ることで有名で、観光客は郷土芸能を見るお祭りとしては東北最多レベル、うっかり圧死してしまいそうなほど人出がある。火防せの虎舞は室町後期にすでに形を確定したといわれ、当時の領主大崎氏の伝えた芸能としていまだに町民の信仰が篤い。

 古いだけあって芸態は素朴であり、屋根の上の演目『本拍子』と『岡崎』はともに足をしっかり屋根の足場に固定したまま上半身だけ左右に揺らして踊る。岡崎には、上下の動きが入るが、個々の踊り手の技量に依ったアドリブ的なものに見えた。尻尾に竹刀らしきものが入っていて、それを天にむけて立ててメトロノームのように単調なリズムで絶えず振っている。上手は踊り手は、左右の上体の動きの合間にキッと首をかしげるような切れのある動作を入れる。単調な動きを飽きないように見せるのが、屋根の上での技の見所と思った。
 地上で踊る時は、もちろん足も踏み込み、上体を激しく上げ下げする踊りになるが、それでも岩手の釜石虎舞などと比較してかなり素朴である。一番勇壮に感じたのは、山車とともに往来を練り歩く『通り』であり、頭を激しく振って勇み歩く、いわば虎舞の原点であった。

 春の行事であるため、虎舞につく山車(囃子屋台)にはビニール製の桜を柳状にたくさんぶら下げたもの(バレン)が山のようについている。高さにして約3メートルだから、かなり大型である。観客はバレンを毟り取って御札とともに神棚に上げ、お守りにする。通りの所々にわら棒のようなものが刺さっており、なんだろうと見てみると、もともとはこういった造花、ビニールだったり和紙だったりするのだが、それらが刺さっていたものらしい。バレンを積み上げた下には、虎の人形や鳥居など、思い思いの装飾が凝らされており、全体として虎と花尽くしの山車となっている。虎舞の屋台として目にしたものの内、最高級でもっとも特徴のあるものであった。

 囃子はおだやかで格調高い笛にあわせて、ラグビーボールのような形の撥で太鼓を華やかに、勇ましく打つ。太鼓と掛け声で、雅な笛の旋律が一気に虎舞の世界に引き戻される感じだ。通常は録音された音源を使い、門付けや屋根虎のときのみ実演するようである。

 『通り』の囃子をはやしながら街を練るさまが圧巻で、山車の進行に合わせて各家々に1〜2頭があがりこんで火防祈祷を行う。時折山車の前に頭を連ねて勇みながら歩く。頭数を増やして門付けする場合は山車から太鼓をはずしてきて店先や庭に据え、5〜6頭が庭先に頭を連ねて上体を上下し、威嚇のような振りで舞う。

二部の屋台
 虎舞の組は1部(午前中登場)・2部・3部(午後登場)で、それぞれ屋台を1台づつ引きまわり、特にも本部つながりと思われる2部の虎が頻繁に屋根の上で舞う。1部や3部は一回くらいしか屋根に登らず、あとは門打ちに精を出す感じで、どことなく客分的な出演の仕方に感じた。もっとも門付けの際、2頭程度で梯子を掛けて屋根に上ることはあるようで、もしかすると街中以外での屋根虎が見られるのかもしれない。
 それぞれ、1部は舞の切れに秀で、2部はリアルな虎の人形と横に大きく張り出した花バレンによって屋台が一番よい出来であり、3部はほかとは比較にならない良い顔をした虎頭であったりと、それぞれ押しを持っている(大学時代に中新田出身の方とお話しする機会があり、その際3部の頭が良いことを色々教えてもらい、実地で見て確かに良かった。なぜポスター等にこの虎が出ないのか不思議である)。1部、2部…という呼び方はおそらく大正期の消防組の呼び名がそのまま残ったものであろう。地域の名ではなくこういう呼び方で残っているのが面白い。

 2部が本部前で踊る独特の演目に『目覚め』があるが、これは囃子の華やかさに虎が目を覚ます様子を躍ったもので、はじめばったりと横になった虎が前足を咥えて顔を洗ったり、顎を震わせてあくびをしながら起き上がったりと、グダグダした猫のように踊る。技術的には全演目中最高級の趣向である。
 最後の公演、4時ころになるとやっと観客の殺到も一息つき、夕日に照らされた絶好の雰囲気で虎が屋根舞を行う。ゆっくり見たいなら、このポイントを狙いたい。


 初午のお土産として売られている火防の纏も良いお祭り情緒であり、活動資金ともなるということなので、御花のつもりで1000円出して買ってきた。虎舞の門付けは5時ころまで辻辻で行われ、本山車ではない桜を吊ったトラックなどを伴って細々と行われていたりする。(平成14年見物)


         公共交通機関によるアクセス:JR陸羽東線「古川」からバス接続。

 

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                文責・写真:山屋 賢一


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