盛岡山車の演題【風流 巌流島】
 

巌流島

 



一戸町西法寺組組平成26年

 巌流島(がんりゅうじま)は江戸時代の初め、当代随一と謳われていた剣豪 宮本武蔵(みやもと むさし)と佐々木小次郎(ささき こじろう)が命がけの決闘に及んだ島である。関門海峡に浮かぶこの無人島は、決闘当時は「船島(ふなじま)」と呼ばれていた。佐々木小次郎は大名家お抱えの剣術師範で、決闘の日は目の覚めるような赤い陣羽織の麗しい装い、背には三尺に余る長刀「物干し竿(ものほしざお)」を帯びていた。彼の編み出したこの長刀による反動切り「燕返し(つばめがえし)」は、当時無敵の秘剣として名高かった。一方の宮本武蔵は諸国流浪のうちに剣の理法を磨く浪人、粗野な着物に手縒りの襷をかけた鉢巻姿、獲物も決闘場に向かう船の上で即席に削り出した、割れ櫂(かい:船を進める道具)の木刀であった。果し合いの刻限に大幅に遅れて現れた武蔵、白刃を払った佐々木小次郎が物干し竿の鞘(さや)を波間に打ち捨てるとにやりとして「小次郎、敗れたり」とつぶやく。お前は勝って再び刀を鞘に納めるつもりがない、というのである。
 決闘は一瞬の刹那(せつな)であった。諸手に木剣を振りかぶった武蔵が中空に飛び上がるのを、小次郎の切っ先が確かに捕らえた。武蔵の渋染めの鉢巻が見事両断され虚空に舞い散るのを見て、小次郎は「勝った」と思った。しかしそれよりわずかに早く、武蔵の木剣は小次郎の頭蓋を粉々に打ち砕いていた。小次郎は刀の柄を離さぬままに、それでも安らかな顔で逝ったという。
 後世、人々が敗れた小次郎を悼み、その流派をとって決闘場を「巌流島」と呼ぶようになったのは、日本人のやさしさである。

日詰一番組平成26年

 おそらく「川中島」を意識して構想された演題と思う。本家盛岡では山車にされたことがなく、一戸や石鳥谷・日詰などの周辺域で何度か試みられた。両者成人で、片方が高く跳んでいるなかなか厄介な演しものである。武蔵が二天一流(にてんいちりゅう)、俗に云う二刀流であるのを活かし、木刀一対を両手に跳び上がる構想もあったが、多くは木剣、というよりは櫂そのものを両手で抱えて跳んでいる姿とする。着物は黒で鉢巻は柿色と地味な配色にされることが多く、山車としての華は専ら佐々木小次郎に充てられる。小次郎はまず貴公子の風貌であり、猩々緋(しょうじょうひ)の羽織に金襴のたっつけ袴と、まるで「闘牛士のようないでたち」(水木しげる談)。前髪を残した頭に白い鉢巻を巻いている。刀の長さを強調するために柄を両手で構え、刀身は舞台の縦いっぱい、ないし横いっぱいに展開される。
 背景は武蔵が乗ってきた船の帆か、あるいは決闘場に張られた細川家の陣幕か、白地に定紋を染めた幕をかけ、下半は波が洗う。傍らに小さく船の舳先を覗かせる工夫もあった。
 双方、並外れた手練れであるのみならず、立派な人格者であったという。やはり両者ともに主役に据え横綱相撲に仕立てるのが、先人への礼儀であろう。

「塚原朴伝と宮本武蔵

 なお、戦前期の盛岡では『宮本武蔵大蛇退治』や『武蔵と塚原朴伝』など、巌流島以外の場面採りで宮本武蔵の山車が出ている。



(他地域の「巌流島」の山車)
 他流でも、上記のように武蔵を飛ばした2体飾りであることがほとんどだが、両者とも地上に置いた趣向もある。武蔵が乗ってきた船の船頭・検視をする細川家の老役人、波頭に海鳥をたくさん飛ばした作品もあった。山車全体が薄い空色のさわやかな色彩になることが多く、武蔵の着物も白や水色で構成されることがある。武蔵が櫂ではなく真剣を両手にしている例もあった。巌流島以外に、武蔵が二刀流を編み出すきっかけとなる宍戸梅軒との決闘をはじめ、武蔵の武勇伝が何件か山車にされている。





文責・写真:山屋 賢一
※掲載3枚目:屋形山車『塚原朴伝と宮本武蔵』絵紙(大正期盛岡) もりおか歴史文化館提供

山屋賢一 保管資料一覧
提供できる写真 閲覧できる写真 絵紙
風流 巌流島 一戸西法寺組(本項1枚目)
日詰一番組(本項2枚目)
二戸川又

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日詰一番組

石鳥谷中組
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(音頭)

熊野祭りに 引き出す山車は 音に聞こえし 巌流島(がんりゅうじま)
見るもいさまし 宮本武蔵
(みやもとむさし) 武勇の誉れ 国の魂(たま)
その名後世
(のちよ)に 巌流島と 両剣豪(りょう けんごう)を 偲びつつ
巌流島に 剣豪ふたり やまと男
(お)の子の 波しぶき
鍛え鍛えし 武蔵と小次郎 武士のさだめか 千鳥
(ちどり)鳴く
(せ)なに帯(お)びたる 物干し竿(ものほしざお)の 孤剣(こけん)に懸ける 夢はるか
(たけ)き心と 優しき情け 使い分けたる 二刀流
無念・無想で 対峙
(たいじ)の両者 刹那(せつな)一振り 極(き)めの太刀
宮本武蔵の 剣
(つるぎ)は冴えて 燕返し(つばめがえし)は 波まくら
二天一流
(にてん いちりゅう) 猛虎と躍り 燕返しぞ 敗れたり
佐々木小次郎の 最期ぞあわれ 巌流島に 茜雲
(あかねぐも)
なぜに届かぬ 乙女の心 またも武蔵は 闇の中






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