岩手県久慈市 久慈秋祭り

 

 

 約600年の歴史を持つといわれる岩手県久慈市の秋祭りは、「県北地方最大の秋祭り」と褒める人も多く、実際大型の八戸系風流山車8台の競演は、その規模を十二分に感じさせてくれるものがあります。

もともと三八上北地方の秋祭りには、「八戸の山車を招いてにぎわう」といったような事が昔からあったようで、久慈の山車も八戸三社大祭で奉納された山車をそのまま持ちこみ、組の名前を書いた看板などを付け替えて運行されているのが一般的ですが、近年3団体で自作、手作りの山車が奉納されるようになりました。大変嬉しい事です。久慈オリジナルの山車は、八戸の山車の最大の見所であるせり上げ舞台の仕掛けがやや押さえられてはいるものの、人形の質感や構図の作りはかなり他の組の山車に迫るものがあり、今後ますます技術を上げていくのだろうと、期待させてくれる雰囲気でした。

 八戸の山車の持ちこみ?じゃあまったく八戸の三社大祭と変わらんじゃないか…と思われる方も多いかもしれません。実際私もそう思っていた一人なのですが、実際お祭りを眼にしてみて、かなり違った雰囲気を感じることが出来ました。
私が見に行ったお帰りの日、最終日の日程は、午後2時から巽山神社の門前、本町を起点に山車行列がスタートし、午前中はそれに先駆けて駅方面に向けて各組の山車が駅前付近を自由運行するわけです。といっても、山車の運行としては自由な門付けはほとんどなく、寄付もらいはもっぱら若衆の音頭上げ廻りで行われています。久慈のお祭りが八戸と違うところ、第一はこの音頭の珍重にあります。八戸のお祭りでは、音頭は全くといっていいほど耳にする事がないのですが、久慈では山車の運行前から町のいたるところで音頭の上げ廻りが行われ、また山車の運行中も頻繁に音頭が上がります。音頭の節は盛岡周辺のものにかなり近く(これは八戸市の音頭も同様です)、歌詞は組誉めの一曲のみで、実行委員会発行のパンフレットには山車の見取り図の横に必ず書かれてあります。組誉め以外の曲、長歌の形式をとって演題を読み上げるものもいくつかはありました。軽米町で耳にしたものに似ているような気がします。とにかく久慈のお祭りの聞きどころは音頭、山車を見せるメインであるせり上げも、必ず山車を止め、進行中の囃子でない囃子を何種類か披露し、またそれに続く音頭を背にする形で行われます。これは、山車を開いて見せるのが祝儀への御礼といったような元もとの山車を見せるあり方にも通じ、八戸の山車運行ももともとはこうでなかったか、そういう郷愁めいたものを感じさせてくれました。

 進行中のお囃子は、大太鼓・小太鼓のリズムは南部流のものにかなり近く、これに供される笛のメロディーは八戸のものとはまったく違う、久慈独自のものです。そういわれてみると、軽米や大野、普代といった八戸から持ちこまれる山車たちに、いったいどういう笛のメロディーが供されているのか、非常に気になるところです。また、先程来書いているせり上げの部分の山車を止めるお囃子、これは八戸には見られないものであり、とりわけその中の一曲が本当に幸せそうな響きをたたえていて、お祭りに望む庶民の思い入れを感じさせてくれる名曲と思いました。囃子で特筆すべき点はもうひとつ、大太鼓の奏法です。大太鼓は小太鼓とともに山車の飾りの前の部分にいるわけですが、大抵叩いているのは一人で、山車運行における非常に重要な役割を果たすものとして、運行開始時、町内運行時には頭取りの名と合わせて観客に紹介されるほどの花形であります。この大太鼓の奏法は、叩く動作の節目節目で山車の進行方向に向かって撥を構えて見せるというもので、いつからこの奏法が久慈に定着したのか定かではありませんが、太鼓の面やその垂直上方ではなく、観客に向けて奏法をアピールする姿勢に、この地方独自の気風を感じます。大太鼓は大方は若い男衆がたたきますが、め組では女性が携わり、粋な奏法と型の力強さには思わず惹きこまれそうになります。進行のお囃子は「よーす、よいさ」の掛け合いに終始し、これは二戸地方の掛け声に若干の色付けがされた形。「やれやれやれやれ」は小太鼓しか囃しません。大太鼓の撥は短いバット型、小太鼓は長くて細めの撥を使っています。
 久慈秋祭りに見られる山車の惹きまわしの作法は、八戸系の山車を本当にじっくりと楽しませてくれるという意味で珠玉とたたえる事が出来、お帰りパレードについてはお昼の2時にスタートし、たっぷり3時間、午後5時までゆっくりと町内目抜き通りを運行してくれます。また、久慈市役所の繰り出す神輿が人形神輿であって、毎年趣向を変えることからこれも、山車と同じ楽しさを提供してくれます。

唯ひとつ、久慈のお祭りの望ましくない点を上げるとすれば、約2ヶ月を経た八戸の山車の節々に著しい落剥が見られることで、塗装の剥げは言うまでもなく、人形の破損と材料の露出、装飾の破損などに改修を加えられず、そのまま運行されてしまっているという実情にありましょうか。これは山車をじっくり見せる久慈の運行形式だからこそ余計に目立ってしまう事で、貸出先借入先双方からの努力が求められるといえるかもしれません。この意味では、自作を手がけるめ組、備前組には努力の成果がきっちり主張できる余地が残されているともいえましょう。

 いずれ久慈のお祭りは、県北最大の名に恥じないスケールと、新嘗祭の素朴な雰囲気双方の魅力に酔えるイベントといえます。(平成15年見物)



※資料※

各組の借入先:新町組(塩町山車組)・本町組(吹上山車組)・巽町組(廿六日町)・に組(十一日町龍組⇒平成16年より自作)・上組(売市付け祭り組)・中組(類家山車組)・め組(自作)・備前組(自作)

概要日程:
前日(9月第3木曜日) 午後6時半から駅前前夜祭
初日(9月第3金曜日) 午後5時よりお通り(目抜き通り夜間パレード)
中日(9月第3土曜日) 午後から郷土芸能大パレード
終日(9月第3日曜日) 午後2時からお帰り(目抜き通り日中パレード)


※八戸系風流山車行事一覧

文責:山屋 賢一

※ホームへ