小鳥谷八幡神社祭典

 

に組で着物を新調した『大口屋治兵衛』

 平成20年に山車が復活した小鳥谷(こずや)まつりは、一戸まつりに次ぐ「第二の一戸の山車祭り」として近年盛り上がりを見せています。いわて銀河鉄道「小鳥谷駅」から少し歩くと、往年の街道であろう見通しのきく一本道が南北に広がり、遠くからお神輿の行列がやってきます。
 小鳥谷の山車行事は音頭上げや門付けを大事にしているのが特徴で、山車は街路の一軒一軒に丁寧にお祝いを述べながら進んでいきます。
 【写真 に組平成25年見返し『大口屋治兵衛』:衣装や傘は組自前】

 

小鳥谷山車の行列

山車行列先頭

 山車の先頭には大きな高張提灯を1組掲げ、一戸山車にも共通する「お供え」(酒・折敷などをささげた少女)が綱の前を歩き、金棒引き、引き子、山車…と続く。お供え持ちの少女は一戸のような半纏・手古舞装束ではなく、黒い振袖に襷を掛け派手な帯を締めた非常に豪華ないでたちで、2組でほぼ共通している。
 小鳥谷におけるお供えおよび金棒引きは、良家のお嬢様や年頃の娘さん達を観客にお披露目する意味を持つともいわれ、昔はお祭りが縁で成立した縁談もあったという。現在もこの役目は若い独身女性に限定されており、お通りが終わって門付けに入ると随行しなくなる。
 野中若者連の金棒引きは従来のスタイルに近い浴衣姿で、金棒を持たずに付属する綱だけを持ち、金棒を引きずって歩く(同じく一戸の山車人形を借りる浄法寺の手古舞も、これとよく似た引き方をする)。化粧回しを着けた「先綱」も元は一戸の引き子の古態といい、背には牡丹の造花を揃いで背負ったとも聞く。
 【写真 に組の手古舞・お供え】


 

 

に組の絵紙(平成21年)

小鳥谷山車の台車と飾りつけ・絵紙

 一戸の山車組に依頼し、人形・装飾花など一式を借り上げて山車を出す。復活当初は2組とも台車ごと借り上げていたが、に組は平成24年に自前の車を新調した。夜間は山車を電飾し、初日は小鳥谷駅前での競演、最終日はに組が夜6時半、野中も7時ころまでは運行する。祭典時期の日の入りはおおむね5時半頃なので、両日とも夜間の電飾を見物できる。絵紙は2組とも出していて、音頭を上げた上で各戸に配る。
 【写真 に組平成21年絵紙、絵や音頭は自前】


に 組
 一戸の本組から牡丹・山車人形を借り上げて飾り付ける。演題名を記す前後の演題立て札は組自前のものに付け替えるが、珍しい江戸文字勘亭流の手書きの札を使っていた時期があった。復活時の平成20年は他の借り上げ先との関係もあって新作人形を上げたが、翌年以降は一戸祭りに上がった人形を一部衣装を付け替えるなどして飾っている。
 台車の盆が一戸は角盆・新調後のに組では丸盆となったので、本組と同じ趣向を上げてもおのずと見栄えに変化が出るという。昭和45年の山車行事断絶以前も、本組の山車人形を一から組みなおしたり、着物を自作したり構図を変えたり…という工夫を加えていたらしい。
 牡丹を除く装飾花はに組の自作で、おおむね本組の型通りに作ったものだが、藤は小鳥谷独特の形といい、背面には本組では使っていない真っ赤な紅葉を飾っている。飾り方は近年県央型に近づき、枝の途中に短冊を付けたフチ染めの里桜を片側に飾り、松はもう一方に三段に付けている。波も自前で描き、画風は沼宮内に近い。「消防第3部」「に組」の提灯を一組ずつ、見返し部分に付ける。
 絵紙は本組と違う原画を自前で描き、音頭も別のものを作り、広く盛岡エリアで一般化されている意匠の帯をつけて配布する。
 【写真 に組平成21年見返し『山中鹿之助幸盛』】

仁昌寺に組『山中鹿之助』



野中若者連

野中若者連『畠山重忠』

 平成23年以降は野田組から借り、台車は一戸から持ち込んで組み上げ、梯子部分のプレートを交換する。人形配置や演出に、一戸まつりでの姿と若干の差が出ることがある。街路に面した山車小屋には「山車展示場」との大看板が立つ。
 花書きを滝波部分に張り出して運行する。絵紙は借上げ先と同じ原画をA3サイズの紙に黒刷りし、色の入った帯をつけて配布する。
 【写真 野中若者連平成27年『畠山重忠』、野田組借り上げ時】

 

 

お囃子・掛け声


に 組
 復活当初は太鼓のみの囃子に「元気出せ、声出せ」という掛け声を加えていたが、平成21年に一戸の本組と同じ節の笛をつけ、掛け声も「やれやれ」だけにした。復活前は盛岡風の囃子だったらしく、大八車新調以来これに近い沼宮内風の笛に変えている。音頭前の拍子は太鼓は県央風だが、笛は独特の旋律で付けている。


野中若者連

 太鼓と鉦のみの囃子で、鉦はテビラガネで小太鼓に合わせて摺っている。掛け声は、一戸の上町組に借りていた時は上町組とまったく同じ「よいーいさ、よいさ」で、野田組に変わってからも掛け声は同じだが、拍子に独自性が出てきた(一戸に比べ、抜ける拍子がある)。大太鼓の叩き手の多くは「七つ物」の法被を着ている。


 

小鳥谷山車の音頭

 お通りの出発時にどちらの組も音頭を上げるが、お通りの最中は上げない。地元廻りの際は、1軒につき2曲以上上げるのが普通なようだ。

(音頭の具体的な流れ)

よおいわえ
(やれ、こりゃわのあせ)
やれよはえ
一句目「早瀬の岩に 
ええい、えええい
(よ)
二句目「戸板を立てて 
(やれこイのせ)
三句目「怪力無双の 
ええい、えええい
(よ)
四句目「あゆのすけ 」※七文字前提の節
(よーいよい、よいさよいさ、よーいさあのえ)


に組で背景を描き加えた『扇の的』

に 組
 基本的には一戸流だが、歌い終わりの「やれこのせ」は無く、「よーいよーい」を小太鼓の面打ちで囃す。上げ手は山車に完全に背を向けて音頭上げをする。
 門付け時は、通りを登ったり下ったりしながら両側に上げる。
 【写真 に組平成27年見返し『扇の的』、八幡神社社務所前】

(歌詞の例)
とどろく車の 音を聞けば 老いも若きも 出て騒げ
流れ早川 戸板を背負い 怪力無双 鮎之助
我に授けよ 七難八苦 月夜に拝す 鹿之助
夕日きいたる 屋嶋の浦に ひと矢射とめし べに扇

※演題音頭は貸出先の本組では使っていない歌詞で、に組で新たに歌ったもの。


野中若者連『加藤清正』

野中若者連

 一戸流で、上町組とそっくりである。歌い始めに扇子を大きく振るのが特徴。音頭を「歌う」人が綱から離れ、各戸の玄関前まで行って音頭上げをする。この時の音声がワイヤレスマイクを通して山車のスピーカーから流れ、山車は玄関前の音頭にも連動して合いの手や太鼓を入れる。本隊との連動が見られる点で、盛岡広域で見られる「後付」とは違う。
 お宮の前を通るときは必ず音頭を奉納し、曲は2曲以上、歌い手を代えながら上げる。最後に歌詞からいきなり歌い始める「掛け声頼むぞ」(一戸の橋中組がパレードで披露する、音頭の後付部分を拡張したようなもの)を上げる。
 音頭の四句目が7文字を前提とした節となっており、5文字の音頭を調子を整えて7文字に歌い替えている。
 【写真6 野中若者連平成21年『加藤清正虎退治』、上町組借り上げ時】

(歌詞の例)
今年は豊年 八幡祭り 老いも若きも 皆出て遊べ
今年は豊年 世並みの年よ 浜も大漁と なのるらん
このやお店の 掛けあんどん見れば 商売繁盛と 書いてある
文禄元年 世にも名高き 加藤清正 虎退治
 
(貸出先そのままの歌詞)
鹿もたじろぐ 切り立つ崖を 馬を背負いて 一の谷 (地元新作の歌詞)
掛け声頼むぞ 野中のともよ 引けよ引け引け 野中の花車

 小鳥谷まつり八幡神社祭典には、山車のほかに「小鳥谷七つ物踊り」「高屋敷神楽」が出場。お通りのお供のほか、郷土芸能パレードや各戸門付けが見られる。




 

日程概要

初 日 八幡神社奉納音頭8:00/山車出発(野中)12:00(式典11:30)/合同運行13:00〜14:00(仁昌寺→野中)/こずやサンブルグ(町北側)15:10発/に組、野里門付け16:00/に組、野中門付け17:00/囃子競演に伴う移動17:40〜18:10/音頭上げ・囃子競演18:30〜19:00/小屋入り20:00

二日目 山車出発(野中)12:00/お通り13:00〜14:30(仁昌寺→野中)/地元廻り(音頭は各戸2本ずつ) に組16:00〜18:00、野中16:30〜19:30/野中小屋入り19:30

 

文責・写真 : 山屋 賢一(平成21・24〜年見物)

※一戸まつり(八坂神社稲荷神社例大祭)の状況

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