※県名標記のないものは全て岩手県の芸能です

 

●三妙院系山伏神楽


 岩手では県北部に伝わる山伏神楽の総称で、修験者の(さん)明院(みょういん)、吉祥院らが伝えた。一戸町中山神楽や九戸村江刺家(えさしか)神楽にその端を発するとの伝承が多く、青森県三戸郡および上北郡・下北郡にまで分布しており、青森県では旧南部藩領の神楽ゆえに「南部神楽」とも呼ばれている。

特色として、杵舞や盆舞といった(くせ)(まい)(曲芸要素をもった舞)の発達が挙げられる。権現舞にも曲芸めいた演出があり、顕著な例として八戸市(ほう)(りょう)神楽の権現20体による「一斉歯打ち」や、一戸まつりで門を打つ権現舞の太神楽的な「くねり」の動作、道化が権現様に乗る「乗り権現」などの趣向がある。これらは権現様が他地域より身近に、親しみをもった形で把握されていることのあらわれではないだだろうか。

一番の見ものは『鳥舞』で、これは他の系統の神楽のそれとは全く違った複雑、勇壮な魅力を存分に備えた大人向きの渋い演目であり、中盤に折敷を持って米を撒く所作が入る。鮫神楽・法霊神楽・下斗米神楽の鳥舞が特に良い。

三妙院神楽の芸風が最上まで極まったものに下北半島の修験能があり、これは港から伝わった京風の上品な所作と三妙院神楽の特徴的構成が融合して独立したもので、一般には山伏神楽と大別され「(のう)(まい)」とよばれる。

青森県の無形民俗文化財には三戸町斗内(とない)獅子舞、八戸市法霊神楽、八戸市鮫神楽、田子(たっこ)町田子神楽が指定されているが、岩手の県指定神楽の中に三妙院神楽は該当していない。

 

 


中山手のラッパ舞神楽

〜親指だけを残して他の4本をくっつけ、双方を思い切りぴんと伸ばしてブイの字をつくる。これを「トラ(虎)の口の型」といって、四方にトラの口を突き出して悪魔をはらう鬼神の舞が、一戸町を中心に葛巻町二戸市浄法寺町と周辺地域に親しまれている。これを「ラッパ舞」と総称し、漢字では「乱破舞」と書く。中山手(なかやまで)、とは一戸町中山神楽の流れを引く山伏神楽の一群をさし、青森県下北地方まで中山手との伝承を持つ山伏神楽が分布している。

ここでは、現在演じられている舞の形が中山神楽と特に通ずると思われるものを整理しているが、共通する最大の特徴は、『虎の口』『三方(さんぽう)荒神(こうじん)』『普孫(ふそん)荒神(こうじん)』『ふうしょう荒神』といったラッパ舞への絶大な人気・信仰である。〜


楢山(ならやま)の神楽一戸町
 確認演目:『権現舞』『舞い込み』
 確認日時:一戸まつり八坂神社稲荷神社例大祭(97.8.最終金土日)
 特記事項:華やかな幕が印象的な『権現舞』で一戸まつりの夕方から夜間にかけて町内を門打ちする。下舞の快い澄み切った雰囲気、獅子が踊り出しに見せる「くねり」(目を覚ます仕草)が見所で、かなり技術が高い。

()鹿()の神楽一戸町
 確認演目:『打ち鳴らし』『権現舞』
 確認日時:一戸まつり八坂神社稲荷神社例大祭(97.8.最終金土日)
 特記事項:楢山同様一戸まつりに於ける門打ちが見逃せない。乱破舞の『普遜荒神』も熟練した舞手による貫禄のある手の動きが素晴らしい。女舞『若子(わかご)(まい)』の名手でもあり、序盤に着物を手に持って踊る部分がたおやかさに激しさを兼ね備えている。

葛巻の神楽葛巻町
 確認演目:『盆舞』『権現舞』『三方荒神』『剣舞』
 確認日時:岩手県高校文化祭郷土芸能部門発表会(01.9.6 盛岡市永井 都南文化会館キャラホール ・03.10.2 矢巾町田園ホール)・ 葛巻八幡宮例大祭(02.9.21)・ まんぷくそばフェスタ(0..19 いわて沼宮内駅1階ホール)  …以降も葛巻秋祭り、高校文化祭などで見物
 特記事項:九戸の江刺家神楽より伝授された。お囃子方がたくさんいて華やかにはやす。舞全体に一定のリズムを刻む細かい振動が見られる。現在は高校生の舞手が中心となっており、乱破舞は練りの部分でも面をつけずに素面で踊っている。高校総合文化祭の出場演目である『盆舞』の評判が高い。また、特に『権現舞』の掛け歌のメロディーが際立った変調を見せている(下北半島の「獅子舞」に似たような掛け歌を持つものがある)。くずまき秋まつりの初日、夕方からバス停留所(近年は野外音楽堂)で5演目を披露する。

中山の神楽一戸町
 確認演目:『虎ノ口』『普孫荒神』『番樂』
 確認日時:御所野縄文公園オープン記念イベント カシオペア民俗芸能鑑賞会(02.4.285.4)・二戸地区広域郷土芸能大会(03.9.15
 特記事項:『虎ノ口』の装束は鳥兜に袴装束、一見ほかの山伏神楽の鳥舞や御神楽に酷似する。実際一番始めに習うという基本の踊りなのだそうだ。ラッパ舞の崩しの部分の、扇子を手前にだらりと垂らしてからキッと顔の横で構える振りが見事で、同様の荒舞『普孫荒神』にも見られる動きである。『番楽』は若者2人が組み体操を行う曲舞で、他では子獅子と呼ばれているものである。

高屋敷の神楽一戸町
 確認演目:『舞い込み』『権現舞』『山の神舞』(『翁』)
 確認日時:御所野縄文公園オープン記念イベント カシオペア民俗芸能鑑賞会(02.5.4
 特記事項:『権現舞』は、佳境に入ると道化役が絡み、黄色い綱を権現さまの鼻のあたりに持っていってちょっかいを出し、怒った権現さまが綱を喰わえるや否や、それを手綱に権現さまに馬乗りになる。この趣向は青森県東通村の入口獅子舞にも伝承しているが、一戸地方の神楽妙技をかろうじてとどめるものである。『山の神舞』は、はじめは面をお盆に乗せて下舞を踊り、その後面をつけて舞う。観客へ採物の御幣を投げる場面があるが、御幣の先が鋭利に削られており、これは本来茅葺屋根の天井に御幣を突き刺すことでその家の繁盛を願う祈祷の振りの名残だという。渋く地味な中に非常に高い技術が映える、上級者向けの神楽のように思う。

(こまが)(みね)の新山神楽浄法寺町
 確認演目:『風将荒神』『権現舞』
 確認日時:北東北青少年民俗芸能大会(02.9.1 岩手県民会館)・浄法寺神明社大祭(02.9.16 浄法寺町中心街および神明社境内)
 特記事項:爪を立てた形に手を結び、斜め上方向に突き出すようなラッパ舞である。面のデザインも変わっていて、つりあがった大きな目が特徴だ。舞手は素晴らしいセンスを持った中学生(当時)、何物かが乗り移ったような荒々しい首の動きは圧巻である。浄法寺のお祭りでは社殿に権現舞を奉納し、門付けに回る。5分程度の短い権現舞である。

江刺家の神楽九戸村
 確認演目:『三宝荒神』
 確認日時:漁穀豊穣フェスティバル(02.10.27 カシオペアメッセなにゃーと)・岩手県高校文化祭郷土芸能部門発表会(03.10.2 矢巾町田園ホール)
 特記事項:九戸系の神楽に絶大な影響を与えた神楽座だが、現在の印象はむしろ中山手と呼ばれるものに近い。『三宝荒神』などラッパ舞の練りの部分が上品で優美なのが特色。型を決めるような首の細かい動きが番楽の部分で十分に楽しめるのも魅力。刀くぐりのバリエーションも多様である。高文祭での集団群舞は、この神楽が幼い頃からいかに親しまれてきたかを実感させる、あたたかさがあった。

()()(まち)の神楽山形村
 確認演目:『三番叟』
 確認日時:漁穀豊穣フェスティバル(02.10.27 カシオペアメッセなにゃーと)
 特記事項:水神三番叟の一生を背丈を変えながら(要するにしゃがんだ状態で舞ったりする)演じていくもので、祝福芸の三番叟に見られるような雰囲気である。かなり目立つ首の振り方が取り入れられている。地元小学生による伝承活動が主。

 

堀野の武内神社神楽二戸市
 確認演目:『三宝荒神』『虎の口』
 確認日時:漁穀豊穣フェスティバル(02.10.27 カシオペアメッセなにゃーと)・二戸市郷土芸能祭(03.2.16 二戸市民文化会館)
 特記事項:笛のメロディーが飾らずに美しいというのが魅力で、耳に残る旋律がある。ラッパ舞の手の出し方が素朴で、動作の後半に挿入されているのが珍しい。崩しでは膝をリズミカルに曲げなから進む動きが中心となり、個人的には練を見所としたい神楽と思う。9月第2金曜日には武内神社祭典の宵宮で『権現舞』他2演目を奉納する。

下斗米(しもとまい)の山伏神楽二戸市
 確認演目:『鶏舞』
 確認日時:二戸市郷土芸能祭(03.2.16 二戸市民文化会館)
 特記事項:唐衣を思わせる変わった衣装で踊る『鳥舞』は,はじめに1人の舞手が幕の外で待ち受けるところから始まり、後になってもう一人の舞手が兎跳びをしながら登場する。腰を落としてひねりを加えた横方向への上半身回転が見事だ。衣の袖を持ってひねるという珍しい動きも入り、後半2人が入り乱れる場面では、シンメトリーを敢えて崩した動きをしていて面白い。八戸方面の『鳥舞』に通ずるところが多いが、より渋く、重厚に踊っている。

石切所(いしきりどころ)の深山神社神楽二戸市
 確認演目:『虎の口』『三番叟』
 確認日時:二戸市郷土芸能祭(03.2.16 二戸市民文化会館)・二戸地区郷土芸能大会(03.9.15 一戸町コミュニティーセンター)
 特記事項:二戸周辺の神楽で、特に愛好者から高い評価を受けている。手の動きが2段階になっているラッパ舞は、見た目華やかで観客をあきさせない。三番叟は謡の部分が充実しており、おのおのの所作も上品で華がある。とりわけ回転が美しい。幕には馬仙峡が描かれている。

田中新山社の神楽(一戸町)
 確認演目:『虎の口』
 確認日時:一戸町郷土芸能祭(03.9.15 一戸町コミュニティーセンター)
 特記事項:上記の機会に、約40年ぶりに復活した。実直で凄みのある荒舞を披露し、観客からはたくさんのお花が上がった。舞の型は一般的に一戸方面で踊られているものと同じで、練りの部分では鳥兜をつけて鬼の面をかぶる。

小友の神楽(一戸町)
 確認演目:『盆舞』
 確認日時:一戸町郷土芸能祭(03.9.15 一戸町コミュニティーセンター)
 特記事項:他の神楽座のそれと違い、小友の盆舞は非常に緩やかなリズムでゆったりと舞われる。そのため踊り手には強靭でしなやかな動きが求められ、本物嗜好の曲芸を楽しむ事が出来る。各々の所作をつなぐ部分で双方向にぐるりと回って見せる動きが印象的、最後は様々な格好で盆を高く投げ上げ、見事に受け止める。小友の神楽演目には、盆舞のほかに三番叟がある。

入口(いりぐち)の獅子舞(青森県東通村)
 確認演目:『トラの口』
 確認日時:二戸地区郷土芸能大会(03.9.15 一戸町コミュニティーセンター)
 特記事項:囃子のリズムや動きの基本的な構成は岩手県北のものと同じ、ただそれに実に巧みな工夫を数々加えていて、実に劇的な『トラの口』を作る。荒舞を実感できる素晴らしい練りに比して後半の崩しが若干地味か。掛け声が頻繁に入り、トラの口は大きいからおめでたいのだと歌っている。

袰部(ほろべ)の獅子舞(青森県東通村)
 確認演目:『番楽』『翁』『三番叟』『鞍馬』
 確認日時:熊野さまの年越し(平成1612月)
 特記事項: 公演の前後を短い番楽で飾る。神社から灯明をともして集会場に行く道すがら、「通り拍子」を奏でるが、曲の合間にリズムに変化をつけて仕切りなおしをしている。葛巻の七つ踊りに似たようなお囃子と思った。『翁』ははじめは面をつけないで、後半になって面を付ける。子供をさらう部分もあるので形式は能舞に近いが、序盤の囃子などリズムが早く岩手県北神楽風である。


 

 

江刺家手、八戸藩ゆかりの山伏神楽

九戸村の江刺家から舞を学んだといわれる神楽群で、八戸藩領広域に伝播する。現在の芸態をみると、軽米町がその伝承の中核をなしていたのではないかと推察される。変拍子で、サイレンのようなとげのある笛のメロディーと手平鉦の刻みの細かい擦り方が特色。権現舞の野外公演形態として歯打ちを強調した短い演目、『番楽』と呼ばれる紋付袴で踊る5分程度の短い舞、曲舞の『剣舞(つるぎまい、ケンバイではない)』、数珠の手と動物的な動きを含む権現舞の下舞などが印象深い。〜 


長興寺(ちょうこうじ)の神楽《九戸神楽》九戸村
 確認演目:『杵舞』『権現舞』
 確認日時:北上みちのく芸能まつり(01.8.8)・熊野神社例大祭(0104.8.17
 特記事項:色とりどりの浴衣姿の笛吹きをはじめ、お囃子方がたくさんいて太鼓も複数用いる。この地域のほかの神楽では耳にしないようなメロディーも散見される。足を使った曲芸のとき、袴の裾を帯に挟んで即席のたっつけ袴を作る趣向が面白い。

内丸の神楽《法霊神楽》青森県八戸市
 確認演目:『一斉歯打ち』『中山手権現舞』『江刺家手権現舞』『江刺家手山の神』『中山手山の神』『三番叟』『番樂』『翁』『鶏舞』『剣舞』『杵舞』
 確認日時:八戸三社大祭(01.8.3) おがみ神社神楽祭(02.5.1112
 特記事項:『権現舞』と『山の神』は一戸バージョン(中山手)と九戸バージョン(江刺家手)の2種類を伝えており、こういう例は法霊神楽独特の伝承過程が生んだきわめて珍しい特色といえる。九戸系の神楽を最も洗練した形で伝えている団体で、舞・囃子とも大変勇ましく迫力があり、切れがよい。『杵舞』にはたくさん余興がつき、八戸広域に見られる至芸の一つとされる。

沢田の神楽軽米町
 確認演目:『一斉歯打ち』
 確認日時:軽米八幡宮例大祭(01.9.16
 特記事項:一斉歯打ちのお囃子が上記の法霊神楽と若干違う。

 

鮫の神楽八戸市
 確認演目:『番樂』『三番叟』『鳥舞』『子獅子』『剣舞』『鞍馬入り』『シコロ曳』『五条の橋』『墓獅子』
 確認日時:鮫神楽発表会(02.4.14 八戸市鮫町 鮫生活館)
 特記事項:三妙院・吉祥院から伝わった山伏神楽が地元の漁師たちによって独特の味付けをされて伝承しているもの。5月人形のような本鎧装束で2人の武者が立ち回る「(くみ)(まい)」と呼ばれる歌舞伎、軍記もの演目が数多く伝承している。組舞をもって鮫神楽と上方文化の関連を珍重する愛好家もいる。囃子のリズムがほかと比べて緩やかなので,楽曲が違うように聞こえる。

阿子(あこ)()の神楽大野村
 確認演目:『歯打ち』『鶏舞』
 確認日時:鳴雷神社例大祭(03.8.18)・久慈地方郷土芸能祭(03.11.29 カシオペアメッセなにゃーと)
 特記事項:『歯打ち』は(なる)(いかづち)神社の祭礼期間、獅子頭一体と法螺貝を伴って大野村中心街を門かけする。午後9時には同じ踊りを鳴雷神社に奉納するそうだ。少年団の踊る『鶏舞』はこの系統特有の濃厚な首・腰・袖の動きが魅力、直立姿勢で振り返っているだけなのにやたらと粘っこくアイドルっぽい動きに見える。練り→番楽と展開が早いが、折敷を持った踊りもあって本来の相当深い舞振りが思われる。鮫と同じタイプの鶏の羽が動く鳥兜を使っている。

()月内(づきない)の神楽《九戸神楽》九戸村
 確認演目:『権現舞』
 確認日時:神明社例大祭(04.8.17 九戸村戸田地区)
 特記事項:3年に1回開催される戸田地区の夏祭りにおいて、権現獅子祓いを行う神楽。神輿行列に随従するほか、戸田地区の1戸1戸を門付けし、お散米を噛んだ後に刻みの早い歯打ちを行う。太鼓は大ぶりのものを2つ使い、囃し方は黒烏帽子を着用、総勢15人ほどで町内を巡る。伊保内でも、長興寺の神楽が同様の門打ちを行っている。

小川原の神楽青森県上北町
 確認演目:『番楽』『三番叟』
 確認日時:東北町かみきた秋祭り(05.8.25)
 特記事項:見得を切る動きが頻発する番楽は大変かっこいい。下あごを覆う帯が幅広で、鼻の辺りまで覆っているのは珍しい。三番叟は袴姿の子供たちが演じた。鮫のものに似ている。

 

 




県境の南部神楽(金田一・田子・斗内手)

二戸市北部から青森県田子町三戸町方面に継承される三妙院系神楽の一派で、南部氏の庇護がとりわけ篤かったものである。『ななつもの』や『ししおどり』など、野外や路上で踊ることを前提とした神楽演目を持っている。また、二の腕まで肌を露出させた涼やかで実にさわやか、かつ非常に豪華絢爛な衣装で踊る曲舞『盆舞』を伝承し、田子神楽のものをはじめ人気の高い芸として知られている。〜



・三戸の神楽[斗内獅子舞]青森県三戸町
 確認演目:『ななつもの(七つ道具)』『権現舞』『番楽』『鶏舞』
 確認日時:三戸三社大祭(01.9.13)・民俗芸能保存会発表会(04.3.21 三戸町民体育館)
 特記事項:南部氏の庇護を受けた歴史ある山伏神楽として、青森県無形文化財に指定されている。『ななつもの』は三戸三社大祭にて山車行列の最後尾に付き踊る、歩きながらの静かで素朴な踊り。『権現舞』では下舞で扇・襷のほかに抜き身の刀を用い、獅子を取る部分では、地味だが扇を飲む所作がある。下舞の舞手が獅子頭を取らずに尾を取るの。『番樂』は斗川小学校児童が囃子方まで含み演じている。『鶏舞』は袖を取る舞、2枚の扇を使う舞、2人の舞手のうち一方だけが千早と鳥兜をはずして舞う番樂にわかれ、扇を羽根に見立てて舞台を荒々しく駆ける部分に迫力があり、ラストの番樂で盛り上がりは最高潮に達する。神楽幕はステージ用に白い布に描いたもの、獅子頭は麻の長髪に向かい鶴を2つ大きく染め抜いた紺色の幕、鳥兜には鶏の姿はない。

金田一の神楽二戸市
 確認演目:『盆舞』『しし踊り』『春祈祷』『番樂』
 確認日時:御所野縄文公園オープン記念イベント カシオペア民俗芸能鑑賞会(02.4.28 一戸町)・二戸市郷土芸能祭(03.2.16 二戸市民文化会館)・八坂神社祭礼(05.8.21 二戸市金田一地区)
 特記事項:この神楽の盆舞の魅力は、宙に向かって撫でるように盆を扱うしぐさであり、舞全体に実に上品なアクセントを加えている。始めに扇子を開いた形で逆さに口にくわえて登場するのが変わっている。まるで庭踊りのように太鼓を胴取りがしっかり胴にくくりつけ、しかも2基用いる。

田子の神楽青森県田子町
 確認演目:『盆舞』『傘舞』
 確認日時:全国高等学校総合文化祭郷土芸能部門発表会(0..30 青森県五所川原市「オルテンシア」)・トリコロールフェスタ(0.10.22 二戸駅カシオペアメッセなにゃーと)
 特記事項:田子高校の生徒が演じたものを中心に見た。太鼓の拍子が荒く派手な部分のみを追っており、歯切れが良い。掛け声も素晴らしい。舞は曲芸中心だが、曲芸に入る前の部分で道具を胸元に差し出し、左右に見得を切ってみせる部分が素晴らしい。きり番楽(踊りの終盤に扇を手に踊る)は、勢いはそのままに上品に丁寧に手をかけて踊られていて、優雅さも感じる。傘舞は2本の番傘を閉じた状態、開いた状態で操る演目。


 

 



祈祷神楽

〜神事に伴われる獅子舞のみの神楽で、地味で連続的な拍子に従い激しく祈るように権現舞を舞う。〜


松舘天満宮の三台獅子大権現舞鹿角市
 確認演目:『権現舞』『湯立て神事』
 確認日時:北海道・東北ブロック民俗芸能大会(02.11.17 花巻市民文化会館)
 特記事項:白装束の大勢の囃し方につれられて現れ、激しい歯打ちを行い祈祷する。きちんとした湯立て神事を同時に伝えている

似鳥の神楽二戸市
 確認演目:『権現舞』
 確認日時:二戸市郷土芸能祭(03.2.16 二戸市民文化会館)
 特記事項:”さいとぎ”という行事のときにともに踊られる神楽で、『権現舞』は呪術的な雰囲気の単調なお囃子に激しい歯打ちの音が印象的。獅子の毛は紙ではなく獣の毛である。途中,襷を咥えて神主に引っ張られる動作が入るが,一戸の高屋敷神楽に似た趣向であり、襷を食べるという発想が花巻の円万寺神楽にまで分布する芸風の流れが見られる。



 

 

下北の能舞

〜江戸時代の記録にも下北半島に修験能があったとの記述があり、山伏神楽に比してその舞ぶりの節々に中央の気品を色濃く繁栄した上品さが見られ、また儀礼舞以外はすべて能の謡曲にその原点がある。曽我兄弟や義経記、平家物語などを主題とした武士舞が多く、額に兜の鍬形のような飾りをつけオウオウと気合をかけながら勇壮に舞う。三妙院神楽と能舞とは芸の確立において直接的な関連は無いとされているが、現在の芸風には多分に類似する部分がある。特有の鋭さとおどろおどろしさを感じさせる笛の音・激しく刻みの細かい手平鉦の音・囃子には、観客の心を揺さぶる一種のホラーがある。〜


白糠(しらぬか)能舞(青森県東通村)
 確認演目:『木曾』『翁』『鞍馬』
 確認日時:北上みちのく芸能まつり(00.8.8)・北の大地に舞う(05.11.5 岩手県民会館)
 特記事項:『木曾』は巴御前が敵将の首を討ち取る筋の勇壮な武士舞で、巴紋のついた黒い烏帽子に鍬形の飾りをつけて勇みながら巴が登場し、相手方の首から数珠をかけた法師と激しく立ち回る。巴御前の勇ましく悲しいエピソードに唱和する激しい手平鉦は干戈の交わる戦場の音、刻みの細かな独特の太鼓のリズムは戦場を疾駆する馬の駒音、印象的な吊り上るような笛のメロディーは嘶く軍馬か兵士の悲鳴か…。”武士舞”という岩手県央にあっては非常に遠いジャンルを限りないロマンで持って見せてくれた芸能。

鹿(しし)(ばし)能舞(青森県東通村)
 確認演目:『鐘巻き』『鳥舞』『へんざい』『三番叟』『木曾』『権現舞』『鈴木』『鞍馬』『武士舞』
 特記事項:修験芸能としての『金巻き』では最も劇的な演出例であり、序盤の女舞、沙文の後の民謡調の掛け歌にあわせて徐々に狂い、魔に魅入られるように印を切る女、山伏と格闘する部分では呪文のような掛け歌が延々と輪唱され、組み伏せられてうねる般若の動きは大変おどろおどろしい。能舞において最も誇られる『鉦巻き』を特に見事に仕立てる組として知られる。

大利(おおり)能舞(青森県東通村)
 確認演目:『御神楽』『鳥舞』『籠舞』『翁』『三波申吾舞』『十番切』『綱引き』『鈴木三郎』『渡辺源吾綱』『鞍馬』『権現舞』
 確認日時:正月公演(03.1.3 東通村大利集会場)
 特記事項:『籠舞』は白黒2つの翁面を盆に載せて両手にささげ、四方を踏み静める舞。その後の『翁』は先ず面をつけずに登場し、次第に酔っ払ったようなしぐさとなって倒れこんでしまい、面を付けるとはじめは顔を意識的に隠しながら舞う。途中、2匹の鬼を従えて客席に乗り込み、子供をさらって神楽幕の中に突っ込む。『渡辺源吾綱』は羅生門の鬼の伝説を歌舞伎風に演じる。鬼の手には、代々伝わる乾燥した熊の手を用いている。







演目の紹介
〜三妙院神楽の演目の全体としての顕著な特徴は、岩手県の他の地域には大抵見られる神話系の演目がほとんどないことである。この傾向は遠く下北半島の能舞にも見られ、その代わりに武士舞を伝承する例がある。中世・近世の中央の芸能事情を考察すると、かえってこちらのほうが信憑性があるようにも感じる。ここでは三妙院神楽の源流といわれる中山神楽および江刺家神楽のいずれかから各演目が発生したものと見当をつけ、大体の整理をしてみた。というのは、この神楽の伝承地域では演目によって伝習先が異なるケースが非常に多いからである。〜

 

 

獅子舞の類 曲舞の類 役舞の類 乱破舞の類 組舞の類 庭舞の類 能舞諸演目



獅子舞
 三妙院神楽で一番多く舞われるのは獅子を使った権現舞であり、神社神輿渡御の際にはこれを簡素化した派手な獅子舞を演じることがある。また、墓前に獅子舞を奉納する例も見られる。青森県広域で神楽を「獅子舞」と称していることから考えても、とりわけ観客に親しみの深い芸であるように思われる。

『権現舞』
 神楽の幕開けを飾る祈祷舞で、獅子頭を使って歯打ちを行い悪魔を祓う。県内ほぼ全域に見られる権現舞のうち、この地方のものはとりわけ動物色が強く、くねりを伴った生々しい動作には愛玩的な親しみを感じる。権現様にいたずらをした子供をしかった親が早死にするとか、大漁のお祝いに集まった権現様同士がけんかをしたとか、コミカルで親近を感じられる伝説も多い。また、道化が絡むという趣向(一戸 高屋敷所見)や下舞無しで祈祷を行うセンスには、中央の芸風の影響(いわゆる「江戸獅子舞風」であるということ)を見ることも出来る。一戸の権現様は、幕が歌舞伎の幕のように鮮やかな赤、黒、黄色、緑色などで構成されているのが面白い。

〜芸態スケッチ 青森県指定無形民俗文化財 法霊神楽の2つの権現舞(02.5.11)〜
 『中山手権現舞』は数珠を手にした下舞から始まり、周囲をすり足で回ったあと扇子を閉じたまま中に向けて構える仕草を軸に扇子で舞い、太鼓にかけてある布、よく見れば襷なのだが、これを手にして振り回し、体に巻いて権現様の前に座る。獅子を手にして舞っていくが、この間やはり歯打ちがかなり強調され、しばらくは手に獅子をかぶして舞う。その後、身固めを行う。観客から身固めを受ける人を指定して、一通り体をかんでから幕の中(獅子頭についている幕の中)に入れ、念仏のような掛け唄を唱える。身固めを終えると”もうだり”となる。もうだりは獅子頭を低く構えて前に出したり後ろに引っ込めたりしながら歯がみを行うもので、水鉄砲を構える子供のような無邪気さにあふれる。その後、やはり歯打ちを繰り返し、最後は頭を大きく前方に垂らすようにして踊る。ちょうどお辞儀をした格好でがんがん歯打ちをする。
 『江刺家手権現舞』は下舞の部分で開いた扇子を鮮やかに操るのが魅力。また、本舞の前半、手に獅子頭をかぶして踊る際は、まるで獅子頭に魂が宿って暴れまわっているかのような生々しさがある。下舞の後半も、舞手が獅子を思わせる手をついて回るような仕草があり、また、袖をもって歌舞伎の女形のような振りを行ったりもする。こちらの権現舞は、総じて舞手に獅子が乗り移り、獣としての獅子を奔放に、躍動的に表現しているように思われた。

『一斉歯打ち』
 主に江刺家手の神楽が伝承する。神輿行列に従ずる際、あるいは門打ちの際に行う簡単な権現舞。一般的には5頭前後の権現頭を激しく頭を左右に振りながら一斉に歯打ちさせるもので、頭の切り返しの鋭さと歯打ちの大音響が魅力である。法霊神楽の場合は余興が加えられ、中でも”青柳”と称する、前方に伸び上がって倒れるような踊り、体を反らせながらの連続した歯打ちは実に迫力がある。


『舞い込み』
 中山家手の神楽が主に伝承する。神輿行列に従ずる際、あるいは門打ちの際に演ずる簡単な権現舞。楢山神楽では、1人の舞手が獅子をかぶって頭を中段に構え、四方に歯打ちをして悪魔を祓う。高屋敷神楽では2人の舞手が幕を大きく四角に開いて周囲を威嚇しながら進む、太神楽ないし寅舞の趣向さながらな芸を披露する。

『墓獅子』
 各方面から絶大な反響を呼ぶこの獅子舞は、権現様が墓の前で泣きじゃくるという非常に面白い発想の権現舞で、最初は般若心経を地に臥せったまま聴き、独特の物悲しい掛け歌が始まるとふらふらと起き出して、体を震わせながらゆっくりうつぶせる。途中墓前に備えられた湯飲みや供花を手にとって祈祷をし、また、明らかに泣きじゃくるしぐさを一回だけ行う。よく歌で泣けるといわれるこの演目に、管理人はビジュアルで涙してしまった。目の大きい平べったい雌獅子が、なんだか泣きはらしたような顔に見えるからである。また、威厳を持って首をかしげる権現のイメージを完全に払拭するかのように全身で泣いてしまっている獅子の姿がまったく異様で、ひどく人間的な馴染みやすさを感じたからである。とにかく獅子の動きは、最初茣蓙の上に寝そべっている時点から圧倒されてしまう不思議さがあり、この系統の娯楽性の豊富さを最も端的に表現するものであるようだ。いかなる供養あれども、神の化身の権現様に墓前で泣きじゃくってもらうこの”泣き権現”に勝る供養は無いだろう。そういう発想ができたこの地の素地というのはとびきり面白いなあと改めて感銘を受けた。

 



曲舞(くせまい)
 三妙院神楽にはたくさんの曲芸が伝承していて、これらの起源は相当古く、七つ踊りの派生との関連も注目されるところである。拍子は大抵”剣拍子”という大変軽快なものが用いられ、音楽とは無関係に自由に舞われることが多い。幕出しは決まって「○○を初めて拝むには、若葉の松こそおめでたい」と入る。下舞に当たる部分で襷を舞ながら結んで見せるという曲芸を見せる組もある。

『杵舞』
 杵を片手で回したり乗っかったりしながら自由に舞われ、県北地域の七つ物踊りに非常に良く似ている。八戸の神楽では最高の妙技として知られ、現在舞える人は一人しかいない。扇子繰り、剣舞の体くぐし、杵を足で持ち上げて腰のところで回す、杵を片手で回す、内陸の七つ踊りの杵振りがする足をくぐしたりする一連の所作…と立て続けに曲技を披露し、一番の見せ場は、饅頭笠をかぶって刀を口にくわえ、杵のくびれに足をかけて立ち、番傘を広げて片手で杵を回すという妙技。この前に、やはり杵を立ててその上に乗って見せ、その状態で手平鉦をすって見せるというものもある。いずれも杵の上で比較的長く安定状態を保っているのがすごく妙技然としていていい。最後は鉢巻をおろして目隠しをして片手杵回し。ここまで派手ではないが、長興寺の九戸神楽にも人気の演目として伝わっていて、見せ場はやはり杵の一本立ち。こちらでは扇子をひらめかせて舞台を一周してみせる。

『盆舞』
 お盆を遠心力を使って手にすいつけて見せ、様々な格好で最後まで落とさないように舞って見せる。曲舞では唯一、番楽拍子を用いて囃子にあわせた芸を演じる例である。基本の動きとしては、盆を乗せた手のひらを上下に振る、そのままあたりをぐるりと走り回る、左右の手を交互に真上に上げて見せる、前後にでんぐり返りをする…、など。この地方特有の趣向として盆を投げ上げる仕草を伴う例もあり、盆の上にさらに小皿を乗せて舞うこともある。

『子獅子』
 体を使った曲芸、即ちマット運動的な組体操なのだが、あまり安全性に慎重でない組み方(片手をつないだだけでとか)をさらっとやってしまうのが独特で、中でもジャイアントスウィング的ノリの曲芸は珍しい。2人の舞手が様々に組み合って演じる様が、清涼山の石橋の向こうに戯れる小獅子のようであるとのことから命名。幕出し歌は「峰の小獅子は谷へと下る、谷の小獅子は峰へと登る」というもの。一戸の中山神楽では『番樂』の後半部分に登場する趣向。

『剣舞』
 ”つるぎまい”と読み、刀をしゃがんだまま体をくぐして振り回したりする曲芸。普通の装束に襷をかけて踊り、前半の扇子を投げる曲技が見事。割と短い舞で、最後のほうに自分の喉もとに刀の切っ先を当てて前転するのが命がけの至芸。曲舞の中でも式の色合いが強く、囃子は剣拍子といって、一般に見られるところの七つ拍子である。

 




役舞
 儀式的な意味を持つ舞で、正調として『鳥舞』『翁』『三番叟』『山の神』『曽我兄弟』『虎の口』の6番といわれるが、中にはその倍の12番を役舞として挙げる例もある。『番楽』という一種の武士舞や、曲舞の『剣舞』、最後に舞う『注連縄切り』などが含まれることもある。

『番樂』
 「番楽太郎は八幡太郎の五代の孫で、岩屋に三年篭った後にここに現れた」という意味の幕出しとともに、侍烏帽子をかぶって腰に太刀を佩いて現れ、扇子を複雑華麗に操りながら踊る。武士舞的雰囲気のある短い舞で、時間が無いときにこの一曲で済ませてしまう場合もあるといい、一般に神楽の幕開けを飾る舞とされる。三妙院神楽においては多くの場合,諸演目の終盤にこの番樂の断片が舞われ、すべての舞の基本として位置付けられているようだ。一戸町の中山神楽の番樂は上記の趣向と大きく違い、襷の手を含む下舞の後、鉢巻姿の2人の踊り手が組み体操のような曲芸を行う。 

『三番叟』
 八戸の鮫神楽では一番初めに教わるものとされていて,踏み足をリズミカルに行う素朴な演目である。途中採物を十字に組んで上に突き上げる。八戸のたいていの神楽では、黒い面をつけて四方にこまやかに手を伸ばしながら軽快に踊られており,後半は鈴木をこめかみのあたりに持っていってくるくる回す。これは耳をほじる動きであるといい,他にも何か食べるような動作など,呪術的な色があるという。祝福芸としての三番叟のイメージが混在される例もあって面白い。

『鳥舞』
 この系統の神楽において最も注目すべき複雑華麗な舞で,扇子と鈴木を持って舞う2人舞である。はじめは腰を手にして何も持たずに舞い,次に2人の採物を片手に束ねて持ち,扇子を開いている手に移し変え,最後に扇子を開くという一連の流れがあり,扇子を開いて踊る踊りは『番樂』の拍子に乗って行われる。採物を手にしない部分まで伝承しているのはこの系統の特殊さであり,常にお互い背中合わせになって踊るのが基本。途中一人の舞手が抜けて,最後は一人舞になる。「唐衣,後の世までの千早振袖…」という幕出しの歌も変わっている。兜の鳥は羽が動くように細工されていて,鶏を強調した造りになっている。首の動かし様でこの兜の鳥が跳ね回っているように見せるのが熟練の技である。

『山ノ神』
 山々を守る荒神に祈る舞で,八戸周辺のものはラッパ舞をベースにしたリズミカルな荒舞になっている。見せ場は中盤に柄を削った御幣を天井につきたてるシーンで,法霊神楽では神楽殿に仕掛けをして往時のままの雰囲気を伝えている。中山手とされるものでは,岩手県中部の北上大乗神楽の荒舞に近い,重厚でねっとりした荒舞に仕立ててあり、崩し舞では激しく刀を操って祈祷し,最後に「水」という字を書く。

『翁舞』
 どちらかというと三番叟をベースに作ったような、道化色の強いもので、八戸では老いの悲しみを面白おかしく舞って見せるものとして白ではなく灰色がかった面を用いる。一戸周辺では長い下舞の後に面を隠すような所作を取った後、よろよろと番楽を舞って見せる。いずれ、老人の雰囲気を強調した演じ方をしている例が多い。 

『注連縄切り』
 神楽座を守る注連縄を切って観客に加護を与える舞。はじめはラッパ舞調の落ち着いた荒舞で、後半は剣拍子に乗って激しく踊る。最後に刀の切っ先を自分の喉もとに当てて一回転した後、注連縄を一刀両断する。

 




乱破舞(ラッパまい)
 三妙院神楽における祈祷舞、荒舞に当たるもので、いずれも素手⇒太刀⇒扇の順に採り物を変えて四方を固め、荒神に祈って悪魔災厄を払う演目である。そのため多くの演目には『○○荒神』との名称がついており、重厚で荒々しい練りの部分と、後半の華やかな扇番樂との対象が絶妙である。中山峠を囲む一戸地方の神楽座がとりわけよく伝承しており、当地方の神楽公演における一番の見所とされる。

『虎の口』
 代表的なラッパ舞であり、鉢巻に鬼の面をつけて一人で踊るタイプと、複数で鳥兜に太刀を佩いて踊るタイプがある。いずれも、はじめの動作がVの字に手を作って四方に突き出す動作であり、この手の形がちょうど虎が口を開いて獲物にかぶりつく瞬間を象るとし、これを四方に向けて放つと悪魔はかみ殺されるのを恐れて逃げ出してしまうのだという。その後太刀を四方に立てて振るい、最後は番樂の拍子に乗って華麗に扇子を操り、体を四方に向けて型を決める。面をつけて踊る場合は素手の部分が練り、その後の太刀の踊りから面を外す崩しとなる。

『普孫荒神』
 虎の口とほぼ同じ工程で舞われるものであるが、所作の順序などに違いが見られる。中山神楽では舞手が正座して手を天に向けて掲げると、踊りがスタートする合図となる。

(さん)(ぽう)荒神(こうじん)
 必ず三人で踊ることになっているラッパ舞で、”サンポウ”は三坊・三宝・三方などと表記する。かまどを守る火の神といわれるが、謡の中には「いずれ劣らぬつわもの」の山伏3人の舞ととれる表現もあった。後半部分に見られる刀の切っ先を互いに掴んで刃の上を飛び越したりする”刀潜”が見所とされており、次々と繰り出される曲芸的嗜好が、この演目を数ある中でも一番人気とした所以となっている。

風将(ふうしょう)荒神(こうじん)
 一人で踊るラッパ舞で、死者をつかさどる荒神に祈る荒舞である。構成は『虎の口』以下、他のラッパ舞と大差なく、浄法寺町の駒ヶ嶺新山神楽では、中学生があたかも神が乗り移ったかのような素晴らしい妙技を見せる事で知られている。

 




鮫の組舞(武士舞・武者ものの演目)
 三妙院神楽の役の中に『曽我兄弟』が含まれるように、一般に青森県の神楽には記紀神話を語る演目よりも近世の芝居演芸から取り入れた武者ものの演目が多い。この種の演目が広域に伝播した一つの要因として、太平洋を巡回する中央からの商船がもたらした上方文化・江戸文化の影響が考えられている。八戸藩の第一の港であった鮫ヶ浦にはこれら海運によってもたらされた演芸趣向が凝結して誕生した”組舞"が多く伝承され、演じられており、青森広域の武士舞の一つの起源と考えられている。

『牛若丸鞍馬入り』
 山伏神楽の『鞍馬』は天狗と牛若丸との一騎打ちを描く武士二人舞であり、多くの場合相手が天狗なのか弁慶なのか判然としない。しかし鮫神楽ではこの演目にさらにいくつか趣向を盛り込むことによってより複雑なストーリー、御伽噺の一場面を神楽舞台に再現することに成功している。源氏の御曹司、源義経は平家の恩情によって鞍馬寺に預けられ、いずれ出家して仏門につかえる将来が課せられたが、当人は父の仇である平家を討ちはたさんとの積年の情抑えがたく、日々武芸の鍛錬を重ねていた。鞍馬山には烏天狗が住んでおり、牛若丸は彼らと戦いながら兵法を学んでいったという。この神楽はその様子を語るものであり、牛若丸が鞍馬山に入って烏天狗との果し合いを申し入れ、これに応じた烏天狗2人と決闘し、見事討ち果たす。すると鞍馬山を納める僧正坊大天狗が現れ、天狗の武芸の秘伝を伝える巻物をかけて牛若丸と戦う。応戦する牛若丸も巻物を頭上にかざされるとそのあまりの神々しさに戦意を萎えさせてしまい、大いに苦戦する。一通りの戦いの後、天狗は牛若丸に巻物を与え、牛若丸は僧正坊に別れを告げて鞍馬山を去っていく。これだけ登場人物が多い鞍馬舞は珍しく、北東北では盛岡の宮崎神楽と鮫神楽くらいである。

『壇ノ浦錣曳き』
 能の『景清』と山伏神楽の『八島』から起こしたもので、とくに『八島』の前半を写したものといわれている。本来この伝説は屋島合戦の折のことといわれているが、能では意味合いを付加する関係上平家滅亡の地壇ノ浦に舞台を変えており、鮫神楽もこれに倣った形をとっている。平家一門は源義経の度重なる奇襲戦法に敗れ、ついに本州の端、下関壇ノ浦まで追い詰められていた。ここで敗れれば平家は海の藻屑と消えてしまう。平家方はどうしても源義経一人を葬って戦局を打開する必要があった。そこで平教経は平家一番の猛者、悪七兵衛景清を呼び寄せ、義経を討つように命じる。景清は壇ノ浦の浜縁を駆け回って義経を探し回り、これぞという武将の姿を認め、勝負を持ちかける。その武将は義経ではなく坂東武者の三保の屋であったが、三保の屋は逃げるところを呼び止められた恥をすすごうと景清の勝負を受け、激しい一騎打ちとなる。戦況不利と見た三保の屋は隙を見て逃れようとするが、景清はその兜の後ろの部分、”しころ”をがっちりと掴んで離さない。両者”しころ”をはさんでの引き合いとなり、ついには頑丈に作られているはずのしころが引きちぎれてしまう。両者は舞台上に倒れこみ、向き直って互いの強さを誉めあう。「景清どのの、腕の骨こそ強かりき。」「三保の屋どのの、首の骨こそ強かりき。」。神楽は2人の一騎打ちを完全な鎧武者装束2人によって描き、長刀の名手として知られた景清はきちんと長刀で戦い、三保の屋の兜は引きやすいようにしころを上にあげて作ってあって、しころを引きちぎるのではなく兜を取ってしまうことで両者の引き分けを表現している。

『五条の橋千人切り』
 京都五条の橋の袂に夜な夜な現れる怪盗が渡るものをことごとく切り殺して刀を奪い、今宵1000本目の刀を掠め獲ろうとしていた。そこに現れたのは高下駄をはき、笛を吹く小柄な武者であったが、怪盗は腰の刀を見るやすぐさま襲い掛かってくる。小柄な武者は巧みにそれを交わしてついには怪盗を打ち負かし、家来としてしまう。有名な牛若丸と弁慶の出会いの場面で、弁慶は装束もまさにといった様相を呈しているが、あえて武蔵坊弁慶とは名乗っていない。弁慶のふりおろす長刀によじ昇り、弁慶の体の上で前転を決めて見せる牛若丸の曲芸に注目したい。




庭舞
 岩手と青森の県境にあたる地域の神楽座が特有する演目で、主に少年少女が集団で踊る野外用の短い演目である。二戸市の金田一八坂神社祭礼では金田一神楽の門付けが行われるが、この際子供の踊り手を『七つもの』と『しし踊り』に振り分け、別々に門を回らせる。そのため、あたかも2・3団体の郷土芸能保持グループが祭りを彩っているかのような外見を呈するという。このような門付け廻りの形はもともと県北部の芸能には多く見られたことだといわれ、それがやがて”神楽芸”と呼ばれる諸芸を生んでいった。斗内地区の神楽座が持つ庭舞は、これら神楽芸の発展途上の形を現存するという意味合いで、大変希少なものであるといえる。

『ななつもの』
 七つ道具ともいわれている。いわずと知れた”七つ踊り”の起源となる芸能であり、三戸神楽では神輿行幸の折に最後尾について厄払いをする素朴な芸能である。杵や弓矢など7種類の宝物を横に持ち上げ、揺らすようにする所作が主の短い踊りで、七つ踊りから連想するとかなり地味な印象が強い。 

『しし踊り』
 二戸市米沢の天満宮にはかつて神楽があったが、現在はその演目のうちしし踊りのみが伝わっているという。金田一神楽には希少な「山伏神楽の一演目としてのしし踊り」が伝承しており、八坂神社の御祭の際、門付けを行うという。獅子頭の顎の下から吊り下げたポシェットのようなものを終始つかんだまま下半身、要するに足のステップだけで踊られる素朴なものである。周辺地域の鹿踊り(根反や荒谷・米沢など)が極端に地味になったものという趣で、現在では主に小学生に踊らせている。鹿の腰の部分、通常ささらがつく部分には「金小」と赤字で書かれた白い団扇が据わっていた。ササラスリが一人つく。



 

文責:山屋 賢一

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