岩手県岩泉町 岩泉大神宮祭礼
結論からいうと、けっこう感動して帰ってきました。というのは、ここまで本線筋と隔たった地域で、なおも盛岡と同じような風流山車が自作されていたからです。
バスから降りて、先ず絵紙が店先に張られてあるのを見ました。手書き風のものですが、盛岡のの組を意識したようなカラーの絵紙です。盛岡と違うのは、音頭が付記されていないことと、サイズが小さいことくらいです。演題は『雨の五郎』、どんな山車が出てくるか、これはちょっと期待してしまいました。
岩泉の町は、県道と丁度平行に走っていて、昔ながらの良い町並みがのこっています。山車そのものはこの町から徒歩で20分くらい距離を置く、沢廻と三本松から出ます。昔は他からも山車が来てにぎわったそうですが、今は2台だけの運行です。「郷社(ごうしゃ)」と呼ばれる岩泉大神宮は岩泉の通りと県道が分かれる所にあって、境内には出店がたくさん出ています。プロの出店の他に、地元ならではの岩魚、鮎、山女の塩焼き250円・串もち110円・豆腐田楽100円・龍泉洞ブランドの飲み物各種100円といった食材も豊富に楽しめます。正午頃に岩泉に着いて、もう境内は人でにぎわっていました。
神楽、巫女舞などが境内で踊られている間に、いよいよ山車が神社に向けてやってきました。若干リズムは早いものの、聞き覚えのあるリズムにケレン味のない「やーれ、やーれ」の掛け声。笛のメロディーが少々久慈っぽいほかは、限りなく南部流の音楽です。そして山車の姿は…。
トラック台車の前後にしっかり舵棒を通し、小太鼓は前、大太鼓は後ろ、飾りは紅白の牡丹に桜…と、かなり精度の高い伝承率をうかがわせる仕上がりです。何より人形が、あれはちゃんとした京人形でした。やや小ぶりなものの、塗り方もしっかりした木彫りの京人形。確かに衣装その他は妥協があるものの、これを盛岡型といわないのは何とも申し訳ないような、かなりしっかりしたつくりの山車です。両脇にはしっかり滝と軒花までくっついています。いったいどうやってこういう山車の作り方を学んだのでしょうか?沢廻はこういう風流山車、もう1台の西三本松組の山車は、囃子屋台でした。でも、囃子屋台が南部流のお囃子で動いている。ちょっと不思議な光景でした。背面に大太鼓を据えて、作法も限りなく盛岡のものに近い様相です。
2時になり、紅白の布を巻いた変わった撥でたたかれる太鼓を先頭に、神輿の御渡りがスタート。御通りにつくのは、境内で披露された高校生の巫女舞、出羽神社神楽、岩泉鹿踊り、向町さんさ踊りの面々で、行列の後ろの方には手古舞さんが2人つきます。そして山車。沢廻も三本松も、御宮を出るときにこれまた盛岡そっくりの音頭上げをします。出だしが「やれよは」で始まるくらいの違いです。その後町内に入ると、お花御礼ということで1軒1軒、音頭をあげて回ります。行列は遥かかなたに行ってしまいますが、山車はかなり長く町内を運行します。音頭をあげる人は手木打ちの一人だけで、「よいさあえ」の合いの手もしっかり入っていました。沢廻のほうには、豊年祝いの音頭の他に、きちんと演題にあわせた音頭もありました。見返しの『鯉の滝登り』の音頭もしっかりあります。踊りに使うような色の入った扇子に、恐らくは書き込んであるものと思われます。
お通りそのものは、4時ごろに神社に帰ってきますが、山車は2台とも、お通りについた後は自分の町内に帰ってしまうようでした。いずれ、盛岡の山車に似たものがこんなに遠くまでかなり近似した様態で伝承されているのに感動を覚えると共に、今後この伝承が絶えることのないよう、心より願いたいと思います。(平成16年見物)
文責:山屋 賢一