八坂神社稲荷神社例大祭一戸まつり2012
山車人形は物語を描くべきである、というのが持論の私にとって、
今年の一戸の山車はどれも、じゅうぶんにその表現するところの物語を汲み上げられる、見事なものであった。
碇知盛 波間に沈む 平家最期の 壇ノ浦
(見返し)最期を見つも 夢まぼろしの 再興思い 名を変えて
碇知盛は『平家物語』に見られる新中納言平知盛の最期を劇的に演出したもので、芝居では断崖の上から身を投げるが、盛岡地方では船に乗せ合戦場さながらの姿で碇を抱かせる。
※貸出先と比較(小鳥谷 に組)
栄華短し 平家の最期 潔の知盛 壇ノ浦
(見返し)あだに思うな 帝が言葉 怨み捨て去り 碇綱
鬼とまみえし 渡辺綱の 冴える白刃 鬚切丸
すさぶ都の 鬼討ち果たし 朱雀大路に 光さす
羅城門で渡辺綱を襲った茨木童子だが、実は源頼光の腹違いの兄妹であるといい、異形ゆえに親に愛されるどころか殺されかけ、本当の鬼になったとか…。そう思ってみると、この山車の鬼の顔に一抹の悲哀が見える。
見返しの金太郎も、同じく清和源氏に仕えて坂田金時となった。
※貸出先と比較(浄法寺 下組)
早瀬の岩に 戸板を立てて 男かけたる 勇み肌
躍る若鮎 流れを止めて 怪力無双の 鮎之介
無頼・無骨な若者が激流を堰きとめ一心に鮎を取る、その孝行心。歴史物語が心で人を魅了していた時代の片鱗。
見返しは鮎乃介ら十勇士に擁立された尼子勝久、あと一歩で主家再興ならず。
※貸出先と比較(二戸まつり・浄法寺まつり)
見るも艶やか 牡丹の園に 踊り狂いし 獅子の精
二体歌舞伎『石橋』が初めて盛岡の外で山車に出た。石橋による高低差・牡丹を持つ華やかさ・中国趣味の着物…と、特有の魅力が多い演題である。
※貸出先と比較(武内神社例大祭 東組)
肝の太さと 度胸のよさよ 豪商文左の 紀伊国屋
惚れた仕事に 命をかけて 花の文左の 蜜柑舟
一代で元禄時代を代表する豪商に成り上がった紀伊国屋文左衛門は、ある年の暮れ、海が時化て和歌山に船を出せず江戸に蜜柑が届かなかったとき、ボロ舟を荒れ狂う海に出して紀州蜜柑を持ち帰り、巨利を得たという。山車は覚悟の死に装束で帆船の船端に立つ文左衛門。
使われた人形は盛岡の釣鐘弁慶と並ぶ、岩手県内最大級の山車人形である。
※貸出先と比較(小鳥谷 野中若者連)
怒涛逆巻く 嵐の中に 目指すお江戸は 日本晴れ
(見返し)指に足りない 一寸法師 小さな体に 大きな望み
(管理人連絡先:sutekinaomaturi@hotmail.co.jp)