→平成20年すてきなおまつり特設資料庫は「写真を使わずにいかに山車のことを伝えるか」を目指して執筆しました。
平成20年熊野神社例大祭石鳥谷祭り 山車と音頭の記録
羅生門(下 組)
京の都の羅生門に住む妖怪を、渡辺綱が成敗して片腕を切り落とす物語。平成2年の上若連以来の登場。
羅生門は羅生門でも、大変奇抜な構図であった。下組お馴染みの大人形と、それに釣り合う大馬を盆に乗せ、背景にも門らしき飾りを立体的にあらわした。その上で、赤牡丹の上から山車全体をにらみ下ろす鬼を飾っている。見返しは「戻り橋」、夜叉が女に化けて橋の上で綱を襲う歌舞伎版羅生門である。
めいっぱい詰め込んで、きちんとバランスの取れた豪快な山車に仕上がった。綱の鎧は白の下地が活きて品の良い印象となり、馬は栗毛にして象牙色の鬣をたっぷり生やした。馬上の綱が左に手綱を横一線で構え、右手に禁札を持っている。鬼は灰色で心持ち痩せた感じに、手はハリガネのように細くこの世のものと思われないような異形、長い爪の生えた手を段違いに構えて綱に襲い掛かる。
例年通りの背高で豪快な作風、見ていて飽きの来ない面白い作品であった。
しころを掴む 鬼神の腕を 一閃綱の 羅生門
日本銀次(中 組) 演題紹介
火消しの纏持ちの姿を飾る、盛岡山車独特の演し物である。
中組は昭和62年以来の挑戦、前作は男前のすらりとした銀次であったが、今回は綿入れの半纏を着て体躯もがっしりした、火消しの親分然とした銀次であった。纏の飾りには、もともとの銀次の所属組の印「わ」を頂き、馬簾の下がふわりと開いて広がっている。鉢巻や帯は茶色、とにかく色彩は地味に仕立てて、纏のかざし方も見得のようではなく、本当の火消しが火事場で立てているような重いかざし方にした。足は鬼瓦を跨いでいる。
見返しは道成寺の笠踊りで、「押し戻し」の見返しに出したものとほぼ同じである。今回は背景を除き、釣鐘を充分な高さまで持ち上げた。総じて夜に魅力の増す山車であったように思う。
舞い散る火の粉を 恐れもせずに 火消し銀次の 纏持ち
鐘入解脱衣(上若連)
景清の怨霊が取り付いて鳴らなくなった釣鐘を、畠山重忠が平重盛息女の小袖によって供養し、景清を解脱成仏させるという歌舞伎の場面。
舞台全体に緑青を吹いた横倒しの大鐘を配置し、鐘の頭の部分から景清が逃れ出て行く様子を作った。片手に刀の柄、もう一方に色鮮やかな着物を掴んで、着物の端が若干鐘の上に見えるような塩梅である。衣装は紺・赤・黄のざっくりした縞模様に金の帯でアクセント。横から眺めると、景清が微妙に盆から飛び出しているように見える。足元の支えは一切見えない。見返しは道成寺の舞姫、烏帽子に扇で顔を隠すような姿。枝垂れ桜を優雅に描いた背景画と脇の玉桜がリンクする。
細かい部分にまで注意の行き届いたこの組ならではの丁寧な作品。
形見の小袖 景清かづき 平家供養の 鐘をきく
紅葉狩(上和町組)
平維茂が戸隠山の妖怪「更科姫」を退治する有名な歌舞伎の場面。
従来盛岡山車に採り上げられてきたのとは違う流派の紅葉狩とのことである。維茂は裃姿で烏帽子をかぶっており、夜叉は赤い舎熊で着物は白地に紅葉の刺繍。全体に白が目立つ衣装である。夜叉が手にしている紅葉の枝がちょうど山車の中央に据わり、維茂は反り返るような格好で両手で刀を構え夜叉を睨む。夜叉の手は妖怪らしく手のひらを見せて握ったような形に、よく見ると白目の部分が赤く塗られて凄味が出ている。髪がたっぷりとしていて、頭に近い部分は実際の歌舞伎衣装と同じような編み込みを施した。
見返しは化ける前の更科姫、赤い着物を着せてやや華奢な雰囲気に飾った。
錦織り成す 戸隠山に 夜叉を討ち取る 紅葉狩
四つ車大八(西 組) 演題紹介
鳶と力士の大喧嘩の話を飾る盛岡山車の定番演題。紫色の丹前で両手に大輪を差し上げる雄姿である。
車をがっちりと掴む手の形が非常に丁寧に作り込まれ、上半身を強調し下半身を抑え目に作った。相撲取りなので、きちんと腹は膨れている。車が人形の頭より手前に来るので迫力が出た。
見返しは緑色の振袖を着た藤娘、なかなかよくまとまった。
今年ャ豊年 熊野の祭り 商売繁盛の 守り神
文責:山屋 賢一/写真下の音頭:石鳥谷祭各山車組
(見物日:9月8・10日
/「写真提供御礼」キャプションの写真は、読者様からご提供いただきました。大切に使わせていただきます。)
※今まで出てきた山車はこちらに整理しました