信長 敦盛の舞(上組)
織田信長は室町幕府を滅ぼし、座や関所を廃止して重商主義政策を推し進め、近世城郭の原型である安土城を築くなどした、青史に名高い人物である。信長は若いころ、粗末な茶筅髷を結って腰に荒縄を巻き、奇抜な着物姿で瓜を食い散らかしながら徘徊を重ねていたため「尾張の大うつけ(馬鹿者の意)」などと呼ばれていた。隣国駿河の今川義元が尾張に迫ろうかというときも、信長は重臣会議を中座して先に眠ってしまう。その晩の夜も更けたころ、信長は妻の濃姫が打つ鼓にあわせ、一人扇を手にして幸若の『敦盛』を舞う。「人間の人生は五十年、宇宙の有様から考えればまことにちっぽけなものだ。ちっぽけな自分の人生、ここで賭けに出ないで何とする。」ひとさし舞い終えると、信長はかねてから考えていた今川義元の奇襲を実行に移すべく、鎧を着込んで愛馬に跨った。
信長出陣の舞姿、見返しに濃姫(史実では「帰蝶」)の鼓を打つ姿。盛岡山車としては初の試みとなる演し物である。完全自作2作目。
踊る敦盛 夢幻の誓い 成せぬものかと 名武将
多勢今川 奇才の戦 織田の戦闘 神のわざ
岩見重太郎 狒々退治(下組)
剣客岩見重太郎は父の仇討ちを心に誓い、諸国を武者修行に回っていた。信濃の松本を訪れた際、若い娘の生贄を求める国常明神の噂を耳にする。「神が人を生贄に求めるはずがない。これは神を騙る不埒なアヤカシの所業であろう。」重太郎は、生贄が入るはずの大きな桐の箱に女の着物をかぶって身代わりに入り、村人に社まで運ばせた。夜もとっぷり更けたころ、この世のものとも思えぬ唸り声が鎮守の森に響き、針のような銀色の毛を体中に逆立て、鏡のように大きな目玉を光らせた化け物が現れた。娘を食べようと化け物が桐箱を破った刹那、桐箱から躍り出た重太郎の一閃が闇を貫いた。化け物との壮絶な戦いを経て夜が明けると、壊れた桐箱のそばに人の身の丈の倍はあろうかという大きなヒヒ(白い毛を生やしたサルの一種)が、血だらけになって横たわっていた。
人身御供の 姫救わんと 忍び込みたる 輿の内
大刀一閃 地響き立てて 白き大狒々 どうと堕つ
五右衛門参上(一番組)
ころは桃山時代、天下人の豊臣秀吉は大坂城の天守閣に純金の大きな鯱を一対据えて、日本中に覇を唱えていた。天下の大泥棒と呼び声も高い石川五右衛門は、秀吉の驕り高ぶりを腹に据えかねて、自慢の鯱を奪ってやろうと考えた。ところが大坂城は天を貫く八層の天守、尋常なことでは鯱のあがる屋根のてっぺんにたどり着けない。そこで五右衛門は、嵐の夜に大きな凧をしつらえ、単身これに乗り込んで大坂城の天守閣まで飛び上がった。見事五右衛門は黄金の鯱の翡翠の目玉を盗み取り、秀吉の鼻を明かすことができるのか。
山車には、大凧に身を委ねて夜の浪花の空に舞い上がる石川五右衛門、見返しに恋しい男と再会したい一心で禁忌に手を染めてしまう「八百屋お七」の悲恋を描く。本年4作目となる完全自前の山車である。
盛る浪速の 嵐の夜に 天を盗らんと 凧に乗る
(見返し)お七悲恋に 想いは募り 花のお江戸の 夜を焦がす
四王天 白藤彦七郎(橋本組)
覇王織田信長が本能寺に落命するや、次代の天下を狙う明智光秀・羽柴秀吉がせめぎあった。秀吉の天王山入りを阻もうとする明智方は、秀吉がとっさの機転で放った荒馬に行く手を阻まれるが、天下無双のつわもの、明智四天王の白藤彦七郎はこれをもろともせず、徒手空拳で白馬を投げ飛ばした。この尼崎大馬投げの雄姿は、昨年の盛岡祭りに登場し、大きな話題を呼んだものである。舞台いっぱいに白馬がひっくり返る、迫力満点の演し物が観客を魅了する。見返しは、曽我五郎と朝比奈三郎が真っ赤な鎧を引き合って破いてしまうという歌舞伎の「草摺り引き」、赤い着物もあでやかな五郎時致の1体飾りである。
秋の祭りに 引き出す山車は 怪力豪腕 四王天
秀吉討たんと 白藤急ぐ 猛進荒馬 投げ飛ばす
見得切る姿に 錦の蝶々 鎧かざしの 曽我五郎
兄を思いて 鎧を裂きて 見得切る袂に 蝶が飛ぶ
文責・写真:山屋 賢一/音頭:上組・下組(一戸町橋中組)・一番組・橋本組