平成20年日詰まつり山車

 



 写真順:珍しい演題ほど あとに設定




上 組【曽我五郎時致/化粧坂の少将】
八重に九重 十八番の歌舞伎 花の姿絵 当たり芸

親のかたきを 裾野で果たし 濡れて廓の 化粧坂
翼ひらめく 胡蝶のごとく 艶な姿の 曽我五郎

※演題解説※


 敵討ちのためには敵の目を欺かなければならない。曽我五郎は父の敵「工藤祐経」の目をくらますため、毎晩廓を遊び歩いて浮名を流した。曽我のあだ討ちは鎌倉時代のことなので、もちろん女郎とかはいるはずがないのだが、五郎は馴染みの女郎「化粧坂の少将」に合いに行くため、晴れ着をまとって蛇の目の傘を差している。傘を差しているから、通称「雨の五郎」。

見返し 化粧坂の少将

 上組はここ十年来見返しを完全自作で手がけてきたが、今回初めて表の人形も完全自作し、日詰山車に新たな風を巻き込んだ。華やかな衣装を常日頃から手がけてきただけあって、パッと目を引く鮮やかな山車。特に最終日の夕方、まだ陽の高いうちに照明を燈して商店街を運行してきた姿が綺麗だった。傘の存在感や背景の細かな作り、なんと言ってもこの題材を照らし出すことにかけては、大変に素晴らしい技術を備えている。見返しも評判が高く、小柄な人形を全体装飾でうまい具合に調和させた。


写真提供御礼

 日詰まつりの肝の一つが、路面の両側にずらりと並んだ露天商である。こんなにたくさん露天商が並ぶ祭りも珍しい。しかも道の真ん中にむけて店を開いているから、客が路面にまけ出てくる。商店街一帯がたちまち観客にあふれ、観客の頭越しに遠く、山車が見えるような塩梅である。これは大変良いお祭りの賑々しさだ。
 「くらしのみち」構想によりゆったり歩けるようになった日詰商店街。運行する側は大変になったが、見るほうは山車がゆっくり動くのでうれしい。植木棚を交わす際に山車がよく回り、角度を変えてさまざまな表情を楽しめるようになった。





橋本組【釣鐘の景清/白拍子花子】
放埓景清 解脱のしるし 祓いし煩悩 鐘に取り

平家の再興 心に秘めて 解脱懇願 景清が
(見返し)清姫あでやか 花笠踊り 想い悲しや 道成寺

※演題解説※


 釣鐘景清は盛岡山車の定番演題だが、いまひとつ由来がわからず、この作品では最新の歌舞伎の解釈により女郎阿古屋を鐘に閉じ込め荒ぶる姿と解題。鐘があまりに大きいので、景清は舞台前方に大きく飛び出している。

恋に狂いし 振袖花子 未練隠した 笠の舞

 南部流風流山車の本家、盛岡八幡宮祭典山車を招く唯一の団体となった橋本組。本場の技術の粋を結集した山車に、観衆が唸った。


 「山車が踊る」、日詰祭りの醍醐味はまさにそれである。大太鼓が思い切り山車を揺らし、鐘の緒を構えた景清がぐらぐらと揺らぎながら前に進む。やっぱり日詰の山車だと思う。思い切り太鼓をたたいて騒ぎまわる日詰山車の一団が、この地の神への信仰の形であり、五穀への感謝の形である。山車を見るもの、山車を引くもの共に、この感興のハザマに故郷を感じるのであろう。



下 組【平将門/雨の五郎】
坂東八国 切り従えて 自ら名乗る 親王を

平の小次郎 将門なりと 叫ぶ音声 高らかに
いななく駿馬か 雄たけび高く
 すさぶ坂東 風雲児


 将門は下総の猿島で兵を起こし、関八州の国璽を奪って理想国家を打ち立てようとした。将門の夢は費えたものの、乱の収拾は地方武士団の自浄作用によるものであり、この一件で古代律令制の形骸化が名実ともに明らかになり、日本史に新たな扉が開かれた。

 若武者の将門である。刀が湾曲していて、「切る動作」に新たな解釈を加えていた。馬の足が筋肉隆々としてなんとも勇ましい。地元一戸では大八車に飾られない人形だが、ちゃんと大八に乗って映えるような正統な造りである。


写真提供御礼


 日詰祭りに一戸の山車人形が欠かせないと毎年思う。今回も歌舞伎演題が並ぶ中で唯一、勇みのある騎馬武者が実に魅力的であった。一戸の山車が初めて日詰に貸されて来たのは昭和23年だという。一戸山車組とうまく連携しながら、今後も下組ならではの異彩を放って欲しい。



一番組【新中納言知盛/鷺娘】
出づる渡海屋 いざ知盛は 平家の仇を 討ちに往く

「平家無き世」の 平家の意地を かけて渡海屋 船を出す
(見返し)華の白鷺 舞う朧夜の 名残を宿す 傘の雪



写真提供御礼

 義経は都落ちをするときに嵐に遭って、家来の大半を失ってしまう。このとき平家の怨霊が荒波に現れて義経に復讐したという「船弁慶」の逸話があるが、歌舞伎の義経千本桜では壇ノ浦を生き延びた平家一門が平知盛を頭目に復讐の船を出した、と奇想天外な解釈をしている。出陣する知盛の死に装束、真っ白な鎧姿がなんとも眩く、山車作り達の興味を引いてやまない。

つのる想いも 適わぬ恋も 雪に積もりて 鷺娘(山屋作:祭典未使用)

 歌舞伎は出オチでいいのだと思う。歌舞伎の神様のお祭りじゃないから、山車好きが歌舞伎に精通する必要は無い。ただかっこいいとか綺麗だとか、そんなのでいいと思う。出オチでよいならば、この山車はうまく観客の注意をさらっていた。


 ヒノヤタクシーの門を曲がって山車が通りに現れる瞬間が楽しみだ。これは借り上げを脱した自前の山車だからこその感覚かと思う。自作三作目の一番組は徐々に出来ることが増え、飾り物一つ付けるにも熟慮した上で、その場にいる作り手が納得する形に収めるようになった。今回は初めて女性の人形が登場したが、眉の下の紅が白装束ゆえに際立つ可憐な面持ちであった。夜間照明は緑・青・赤の3色の蛍光灯で照らし出し、白装束だからこそ映える「日詰夜祭」ならではの演し物となった。

写真提供御礼




※一部、読者様から提供いただいた写真を掲載しています。ご協力に心より御礼申し上げます。


※正式な演題名はこちら


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