※写真昇順:平成18年日詰商店街夜間パレード運行順

志賀理和気神社祭典山車
平成十八年九月

 




 久々によい作品がそろった当たり年。武者・歌舞伎・その他さまざまなジャンルの各々独特の見所を備えた演題が、きちんと見所を外さず作られ当日を迎えたのは大変よかった。初日は突然の集中豪雨で一時山車が台無しになってしまって残念、とはいえ2日目のパレードは音頭をさしはさみながら各組じっくりと山車を披露し、3日目も楽しく盛り上がった。紫波一中近くのショッピングセンター「ナックス」では各組の山車の絵紙を載せたチラシを配るなど、紫波町全域とはいかなくても従来このお祭りを共有してこなかった層へのアピールを試み、結果、日詰商店街はまともに歩けないほどの人出となった。


※写真下の音頭上げについて:特に但し書きがないものは、お祭りで各組が歌った音頭の歌詞を筆録したものです。



下 組
 
【碇 知盛/早川鮎之助】
これほどいろんな要素を詰め込んでなおまとまりが崩れないのはすごい。昨年に引き続き、小ぶりな人形を小ぶりと感じさせず、逆に小ぶりであることを上手に利用した作品であったと思う。

義士の最期に 涙を流し 残る武名を 偲ぶ山車(山屋創作)
みるべきほどの ことをばみつと 碇身に付け 仁王立ち

 平知盛は平家一門の中にあってとりわけ武勇に優れ、権勢掌握につれて公家化する一門を一人憂い、頼朝挙兵後は一貫して抗戦に尽力した。「海の底にも都が候」と耽美の言葉を残し壇ノ浦に次々に入水する御座船の女官達を眺め、知盛ほど悔しがり、悲しがった武将は無いように思う。悔やむ言葉もうらむ言葉もなく、
「見るべきものはすべて見た」
ただ静かに言い残し、満身創痍の知盛もまた、碇を抱いて荒海に身を投じた。
 見返しは尼子十勇士の一人早川鮎之助が父の看病のため、激流を背に戸板を背負って鮎をとっている場面。


鮎が一つ一つ立体的に作ってあったのと、竹を上手に使って自然に動くようにした仕掛けがよかった。





一番組
 
【勧進帳/狐の嫁入り】
目線の据え方、ということに関しては4つの組のうちもっともよくできているのではないか。頭や手足を含め大道具小道具それぞれの大きさが少しずつズレており、角度によって見られる部分と見苦しい部分があったものの、大きな人形の安定感と迫力で、山車人形としての面白さを十分に備えた作品となった。

歌舞伎十八番の 勧進帳も 融けて日詰の 夜祭りに
花嫁狐は 人目をさけて 霞む桜の 色に咲く
(音頭:山屋創作) 

 平家を壇ノ浦に沈めた軍神源義経も盛者必衰、今は兄に追われて山伏に身を窶し、人目を忍ぶ旅姿。頼朝の厳命に従い、関守富樫左衛門は山伏一行の正体を暴き縄をかけなんと迫る。絶体絶命の義経を救ったのは、一の家臣武蔵坊弁慶の機略と、類稀な忠節であった。義に感じた富樫の情けを受け、意気揚々と奥州平泉に旅立つ弁慶花道下がりの飛び六方。見返しは日本古来の民俗伝承から、「狐の嫁入り」の妖しく美しい姿を飾る。
 人形を含む全ての飾りを日詰一番組にて自作した山車である。これまで借り上げに徹し、人形設置すらしてこなかった一番組が作った山車として、「恥ずかしくないくらいには」よいことがやれていると思う。


親しみやすく、愛着の沸く狐の表情になったと思うし、あえて全身白無垢にしたのがよく効いている。扇子を持たせたことで、手がきちんと狐の手に見えたのもよかった。背景のベールの工夫は昼夜ともよい効果をあげ、総じてよくできた見返しであったと思う。



(祭典時の音頭上げ) 

命かけたる 勧進帳で 解けて弁慶 六歩踏む
弁慶富樫の 絵巻を結ぶ 踊る六歩の 花道を
(見返し)黒澤世界の 「夢」に魅せられ 狐の嫁入り 映し出す



※一部、写真を押すと演題解説が出ますので、お試しください。

 
 
上 組
 
【日本銀治/汐 汲】
纏を高くつけたことがこの作品のすべてである。遠目で見てそれとわかる雄大な趣向に仕上がったし、纏の角度が人形を躍動的に、いかにも悪者を踏みつけているような体勢に見せてくれたと思う。薄い青のやや落ち着いた色調が、両側下げの桜にもかかわらず派手すぎない渋さをとどめた山車としてくれた。ほぼ自前の新作のような真新しさがあったのはうれしい。

田の字纏を いなせに翳す 火事場絵巻の 江戸の華(山屋創作)
天下泰平 火消しの銀次 勲輝き 纏い振る

 盛岡山車はもともと火消し組が担っているもので、日詰でも往古は消防1分団1部、1分団2部が山車を出していた。1部が現在の上組にあたる。日本銀次は火消し組の華ともいえる纏振りが悪人を踏み据える、まさに火消しの粋の山車である。銀次を通して往古の山車の意気の佳さに思いを馳せたい。


天井の羽衣のような吊物も面白かったし、人形そのものも華やかできれいに仕上がった。







橋本組
 
【和藤内虎退治/娘道成寺】
虎が大きく、顔もちゃんと怖くていい(笑)。盆板との継ぎ目の部分も不自然がないし、いかにも竹薮から飛び出したように細かい工夫が効いていた。緑色の照明で竹を下から照らしたのも効果的。

大虎睨みて 日ノ本神の 威厳示すか 和藤内
募る想いに 焦がれる胸を 映す茜の 七つ笠
(山屋創作)

 義兄の甘輝将軍に援軍を請う為、和藤内は明国へ上陸する。途中千里ヶ竹の藪の中で、虎狩りの勢子の喧騒を耳にし、竹薮から飛び出した虎と取っ組み合う。大事を前に身体をいたわるよう母に諭された和藤内は、伊勢皇太神宮の御守りを頭上にかざして虎を睨み据える。護符の威徳に虎は尾を伏せ、見る見る萎縮してしまった。この様子を見ていた勢子たちは、始めは「小国のもの」と馬鹿にしていた和藤内を主と仰ぎ、味方についた。
 昭和63年に出て話題を呼んだ和藤内虎退治、約20年ぶりに再登場。

翻った袂を隠さないように笠を上げたのが、単調さを崩して絶妙であった。





※写真下の音頭上げについて:特に但し書きがないものは、お祭りで各組が歌った音頭の歌詞を筆録したものです。

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