えんぶり

太夫を含む数人が、馬の首の形をした大きな烏帽子を地面にこすりつけるように振って踊る。これが「えんぶり(摺り)」と呼ばれる要になる演目で、上演の最初に『摺り始め』、中盤に『中の摺り』、一番最後に『摺り納め』『くろ止め』を行う。動きが派手で超人的であり、変化に富む見ごたえたっぷりの踊りである。
祝儀がたくさん上がると、『金輪切り』や『豊年すだれ』など、曲芸を演じることもある。
囃子舞の賑々しさとは対照的に、えんぶりはお経のような暗い掛け歌のみで踊られ、両者のギャップがえんぶりの魅力でもある。講演は参加団体が繁華に結集していっせいに踊る「一斉摺り」もあるが、神社奉納および各戸門付けが風情があっていい。会場では、鶏のダシで南部せんべいを煮込んだ「せんべい汁」など、地元ならではの冬の味覚が味わえる。
※県名未表記のものは、岩手県内のえんぶりである。

確認演目:『摺り』『大黒舞』
確認日時:軽米八幡宮例大祭(01.9.16ほか
特記事項:軽米の秋祭りでお通りについて踊る。お囃子は子供たちに任せるには難しすぎるのか、何度見てもよく聞こえない。えんぶりの後に大黒舞が続くが、こちらはカセットテープの音源を使っている。
・妙のえんぶり(
確認演目:『えんこえんこ』ほか
確認日時:みやこ広域郷土芸能まつり(02.1.19
特記事項:民謡調の『大黒舞』は三味線などを持ち込んで本格的に囃す。囃子舞の舞手がにこにこしながら踊っていて楽しそうだ。『摺り』は勇壮で、烏帽子を片手で支えて踊る激しさがある。
確認演目:『摺り』ほか
確認日時:名川地方えんぶり(02.2.9・06.2.11
特記事項:『摺り』は、「はあよいわさ」で体を三つ巴の形にかっちりと合わせるところが圧巻。構造はシンプルだが、迫力があって見ごたえのするえんぶりである。下斗賀組以外の名川町のえんぶり組は門付けのとき摺りを省略する傾向が強い。
・剣吉下町内のえんぶり(
確認演目:『摺り』ほか
確認日時:名川地方えんぶり(02.2.9・06.2.11
特記事項:名川地方えんぶりに参加。えんぶりのほかに社殿で演じる「かぐら(太神楽獅子舞)」を伝承する。遠目で見ると面白い摺りで、大黒舞は名川で一番華やかな演出である。名川えんぶりの門付けでは、摺りの部分を略して囃子舞だけを演じる組が多い。門付けは午後2時ころがピークで、夕方4時に差し掛かっても続いていた。
・高瀬川のえんぶり(
確認演目:『喜び舞』ほか
確認日時:名川地方えんぶり(02.2.9・06.2.11
特記事項:腰の低さが随所に現れるえんぶりで、町村合併後の「南部地方えんぶり」に参加し始めた片岸えんぶりに通ずるところがある。。
・福田上のえんぶり(
確認演目:『恵比寿舞』『豊年すだれ』ほか
確認日時:名川地方えんぶり(02.2.9
特記事項:囃子舞は跳ねながら回転するのが独特で、そのあと腰を落としてうねる。恵比寿様をはじめ非常に上手な舞手がそろっている上、『苗取』や『松の舞』など名川地方ではかなり多くの囃子舞を伝承している。とりわけ『苗取』の際に歌われる情緒的な調べの掛け唄は素朴でいい。八戸えんぶりでは酒屋に入って玉すだれの曲芸を披露していた。

確認演目:『大黒舞』『苗取り』ほか
確認日時:名川地方えんぶり(02.2.9・06.2.11
特記事項:名川では一番派手な摺り方で、体をゆする部分がある。『大黒舞』は笛と太鼓の拍子のみで素朴に囃す哀調を帯びた演出で、笛の味わいがなんともいえない。
・石堂のえんぶり(
確認演目:『摺り』
確認日時:八戸えんぶり えんぶり大会(02.2.18
特記事項:「ながえんぶり」といわれるもの。ふつうのえんぶり(どうさいえんぶり)と違い、大烏帽子の中に1つだけ両面に牡丹の花をあしらったものがあり、これが他の大烏帽子とは違う動きをする。1:2の2種類の踊りを並行して演じていくのがながえんぶりの特徴で、かなり複雑な摺りである。石堂組は『大黒舞』に民謡調の掛け唄を用いず、普通の囃子舞風に踊るのが珍しい。
・田代のえんぶり(
確認演目:『さづま』ほか
確認日時:八戸えんぶり えんぶり大会(02.2.18
特記事項:『恵比寿舞』では恵比寿が他の踊り手を巻き込んでおどけて見せるのが面白い。摺りは杓を激しく床にたたきつけるのが特徴的で、農作業を思わせるような組み方も点在する。
・横町のえんぶり(
確認演目:『苗取り舞』ほか
確認日時:八戸えんぶり えんぶり大会(02.2.18
特記事項:ながえんぶりは、摺りの魚が跳ねるようなうねり方がクセになりそうに上手い。どうさいえんぶりが烏帽子の前面の房を振るのに対し、ながえんぶりは純粋に烏帽子を振っている。摺りに入るまでが長く、個々の動きでも大いに観客を魅了してくれる。『苗取り』の子供たちの演技も見もの。
・鳥屋部のえんぶり(
確認演目:『恵比寿舞』ほか
確認日時:八戸えんぶり かがり火えんぶり(02.2.18
特記事項:踊りの合間に解説が入るのだが、ここで実にいい感じのお囃子を演奏する(明松火えんぶりにて)。囃子舞の間、太夫たちがリズムに乗って動いているのが面白い。
・内丸のえんぶり(
確認演目:『摺り』ほか
確認日時:尾上神社神楽祭(02.5.11
特記事項:すりはどうさい系であるが、烏帽子を魚のように振るのでながえんぶりに近いような印象があった。首を震わせる動きが印象的で、最後の畔止めの際も、3人の太夫がずっと烏帽子を震わせていた。口上に合わせて太夫全員が動くのは珍しい。
・杉沢のえんぶり(
確認演目:『摺り』
確認日時:神明社大祭(02.9.16・04.9.12
特記事項:烏帽子ではなく両手を振る。「どうやい」の掛け唄には太鼓の拍子がつき、八戸のどうさいえんぶりが地味に・古風になった印象である。隊形の取りかたなどがこの形式によって普通のものより映える。門付けの際も太夫の摺りのみを演じて回る。
・山道のえんぶり(
確認演目:『津軽山唄』ほか
確認日時:盛岡さんさ踊り・八戸えんぶり大競演会(03.2.23
特記事項:摺りは片足が上がる場面があるため軽い印象。腰を落としての烏帽子の振りと、立ち上がっての振りと、両方楽しめて得なえんぶりだ。囃子舞はいずれも上品で、とくにも『大黒舞』は絶品。『恵比寿舞』も舞い込みのときはおとなしい。
・小中野のえんぶり(
確認演目:『金輪切り』ほか
確認日時:
特記事項:『摺り込み』がけっこう派手、『中の摺り』が無いのか疑問なほど、華やかで良い摺り。『大黒舞』では踊り手と囃し方がセッションして唄を仕上げているので、かわいらしい印象が余計に強くなる。『金輪切り』は口上を踏まえながら7本の金輪を組み合わせて花笠や菓子台を作る曲芸、口上には出来上がったものにたった一つだけ欠けている部分が歌われる。平成12年に復活した。
・小軽米のえんぶり(
確認演目:『摺り』『伊勢音頭』
確認日時:二戸地区郷土芸能大会(03.9.15
特記事項:しゃがんで首を左右に折る、同じ姿勢で烏帽子を振るう…という単純な摺りだが、素朴でそこそこ技術もあるため案外見ごたえがする。岩手のえんぶりがとかくお囃子をおざなりにしがちな中、この組の囃子は八戸地方と同質の高いスキルであった。『伊勢音頭』は女子が番傘を持って踊る手踊り。
・茶屋場のえんぶり(
確認演目:『舞い込み』『松の舞』『鳥刺し舞』『えんこえんこ』『花笠揃え』『金輪切り』『舞い納め』
確認日時:門付け(04.2.8
特記事項:2月初旬の日曜に町内を車で回り、約10戸を門付け公演している。八戸の典型的なえんぶりに比して著しく芸風が異なり、太鼓一つに鉦と笛と歌を添えた単調なリズムの囃子を奏し、音楽的には摺りの部分と他の部分の温度差が殆ど無い。囃子舞は舞よりも口上が主で、熟練した舞手一人が演じる。花笠を使う踊りは甚句踊り風で、子どもや主婦らが大勢で踊る。曲芸の金輪切りは紋付にたすきがけの装束で演じられ、最後に祝儀を受ける舞い納めを太夫3人が踊る。摺りは舞い込みと舞い納めの2つだが、舞い込み部分のほうが舞踊として充実しており、長い謡を伴って単純な動作の繰り返しを幾重にも重ねていく。舞の重点が、烏帽子ではなく手にした杖を振るう事に置かれているのも特徴。
・遠藤のえんぶり(
確認演目:『摺り初め』『松の舞』『摺り納め』
確認日時:民俗芸能保存会発表会(04.3.21
特記事項:八戸のものより地味で渋い。摺りは一度も烏帽子を振らないのが特長で、歌の切れ目に烏帽子を静かに横たえる以外は両手を特有のリズムで動かすばかりである。摺りの途中で歌かけと太夫が掛け合う部分がある。囃子舞は、ほっかむりをした壮年の男性が一人で演じる。松に引っ掛けて長寿を寿ぐ内容であった。納めでは、太夫3人が庭元に礼をするときの扇子の構えが凛として美しい。幟には古風な恵比寿大黒が染めてある。
・尻内のえんぶり(
確認演目:『恵比寿舞』ほか
確認日時:八戸えんぶり 一斉摺り(05.2.17
特記事項:どちらかというと動きの小さいえんぶり。囃子舞は小手先が華やかに動くのではなく、体そのものが移動するような印象であった。
・細越のえんぶり(
確認演目:『大黒舞』ほか
確認日時:八戸えんぶり 一斉摺り(05.2.17
特記事項:子供の踊る囃子舞について、特に首をくるりと回す動きが強調されている。大黒舞では扇子を複雑に動かしながら一巡りする様子が、まるで操り人形のようだ。岩手県立図書館に入っているビデオでは、苗取りの拍子と舞のバランスが絶妙であり、また恵比寿舞ではさほど難しくない所作であるのに観客の笑いを誘うような巧妙な仕掛けがされている。平成3年撮影のこのビデオと比較すると、現在演じられている恵比寿舞には若干異なる趣があるようだ。
・上組町のえんぶり(
確認演目:『大黒舞』ほか
確認日時:八戸えんぶり 一斉摺り(05.2.17
特記事項:よい恵比寿様のいるえんぶり組の一つ。摺りも大ぶりで華やかである。
・五戸通り百石えんぶり(
確認演目:『通り』ほか
確認日時:八戸えんぶり 行列・一斉摺り(05.2.17
特記事項:通り囃子が他のえんぶり組とは全く異なる緩やかなもので、どちらかというと三社大祭に踊られる虎舞の拍子に近い。囃子舞もこの緩やかなペースの延長線上で踊られ、所作は他と大差ないものの、印象がかなり違う。周囲に比べて地味ではあるが、逆に個性的で面白みがある。
・八太郎のえんぶり(
確認演目:『大黒舞』ほか
確認日時:八戸えんぶり 門付け(05.2.17
特記事項:行列解散後すぐ、公会堂近くの商店にて門付け公演を行っているのを見た。全体に華やかであるが、特にも囃子舞の所作が大きく多彩である。
・仲町のえんぶり(
確認演目:『大黒舞』ほか
確認日時:八戸えんぶり 御前えんぶり(05.2.17
特記事項:腰を落とした状態でなく、直立状態で烏帽子を振る。すらりとしていて切れが良く、見ていて後を引く踊りである。囃子舞も総じて動きが大きく、特に子供の踊る『松の舞』では扇子がいろいろな方向に向いて華やかさを増している。
・白鸚小学校のえんぶり(
確認演目:『苗取り舞』ほか
確認日時:八戸えんぶり えんぶり公演(05.2.17
特記事項:畦止めのときに口上をする太夫がかなり華やかに烏帽子を振っているのが印象的であった。大久保えんぶり組が指導。
・北稜中学校のえんぶり(
確認演目:『苗取り舞』ほか
確認日時:八戸えんぶり えんぶり公演(05.2.17
特記事項:囃子も掛け声もすべて自前で演じる。『田植え』は早乙女が苗取りをした後、太夫とは別に男の舞手が出てきて演じる。2人で演じる『恵比寿舞』は、一方が早々と鯛を釣り上げるがもう片方がうまくいかず、加勢をして2人で竿を上げると、釣り糸には4、5匹の鯛がつながってかかっている、という演出。八太郎えんぶり組が指導。
・重地のえんぶり(
確認演目:『一本植え』ほか
確認日時:八戸えんぶり えんぶり公演(05.2.17
特記事項:ながえんぶりの見ごたえのする摺りを、始め・中・納め以外にも数多く演じている。『一本植え』『渡り田』『田の神の昼休み』などのバリエーションがある。御祝いを上げるときには太夫3人がいすに腰掛け、お神酒を戴く。子どもがおどる”えんこえんこ”にも、『金のなる木』などいくつかの曲がある。
・櫛引上のえんぶり(
確認演目:『櫛引太神楽』ほか
確認日時:八戸えんぶり えんぶり公演(05.2.17
特記事項:余興で太神楽を演じたが、上北下北方面に通ずる太刀を抜いて踊る部分があり、代わりに「もうだり」がない。恵比寿舞の唱え言葉が変わっていて、「今日ここで恵比寿舞を演じるためにこれこれが必要で…」と話をはじめ、お決まりの船の話につなげていく。鯛つりの場面だけ囃子が緩やかになり、五戸通りといわれるえんぶりの通り囃子に近いものとなる。どうさいえんぶりを演じる組の中では、古参の一つという。
・妻神のえんぶり(
確認演目:『摺りおさめ』ほか
確認日時:八戸えんぶり 門付け(05.2.17
特記事項:烏帽子を摺ったり肩や腕を大ぶりに振ったりというような従来の激しいえんぶりの動きの要素を、全く帯びない摺りを演じる。細やかに扇を操り、軽快に隊形を変えながら踊る摺りである。ものすごくあとを引く、独特の踊り方だ。
・東十日町のえんぶり(
確認演目:『恵比寿舞』ほか
確認日時:八戸えんぶり 門付け(05.2.17
特記事項:摺りは烏帽子を振るのではなく、斜めに烏帽子を傾けて杖をたたきつける様子を強調する。農作業の様をリアルに思わせながらも、大変に激しい、厳しい雰囲気を醸す摺りだ。門付けで演じられた恵比寿舞は、子供ではなく大人が演じたもので、首や小手先の動きもこまやかで威勢が良く、何より唱え文句が真実味を帯びていて、観光客の多くが持って帰るであろう恵比寿の雰囲気とは全く違う仕上がりであった。
・片岸のえんぶり(
文責:山屋 賢一
(最終見物:平成19年2月17日)