盛岡山車の演題【風流 大黒さん】【風流 つり恵比寿】
 

七福神の山車

 



 七福神(しちふくじん)のうち盛岡の山車飾りに上がるのは、大黒様(だいこくさま)と恵比寿様(えびすさま)だけである。他に、大昔に布袋(ほてい)さんも上がったらしいが、ここ100年レベルで登場例が無い。

(大黒様)
「大黒天」盛岡市太田お組平成8年

 大黒様は元はインドの神様で、鬼のような形相であったらしい。日本に伝わると神話の大国主(おおくにぬし)と習合されて、ニコニコ顔の福の神となった。五穀豊穣(ごこくほうじょう)をもたらす農業の神であり、米俵を踏まえて宝袋を背負っている。独特の形の頭巾をかぶり、手にした打ち出の小槌からは大判・小判が溢れ出ている。脇には白蛇や二十日鼠(はつかねずみ)が飾られることがある。
 凝ったものでは、二股の大根を大きく作って舞台いっぱいに飾り、上に大黒様が跨っている山車があった。
 大黒様を表に飾るときには、引き子が皆で白鼠に扮したり、半纏の柄に小判や小槌をあしらう例があった。

(恵比寿様)
「恵比寿」沼宮内大町組平成13年

 恵比寿様は七福神の中では唯一の日本生まれの神様で、夫婦神イザナギ・イザナミの間に生まれた最初の子である。ヒルコ(障害児)であったため川に流され、流れ着いた先で釣りを覚え、やがて西宮(にしのみや)の神となった。
 漁と商売の神様で、先の丸い金の風折り烏帽子をかぶり釣竿(つりざお)を手にして、桜色の鯛(たい)を釣っている。山車ではこの鯛を鯨ほど大きく作った例がいくつかあったようで、見返しに鯛の尻尾が出ている豪快な趣向もあった。釣りの姿でなくても、恵比寿様といえば必ず鯛を、例えば脇に抱えたり背負ったりというのが定例なようである。採題に伴い、引き子の半纏の柄に波模様をあしらう例があった。

「弁天様」二戸市川又平成25年

 大黒様も恵比寿様も、近年は表よりも見返しに上がる事が多くなった。見返しであれば多少粗くても、味のある出来栄えには見えるようである。盛岡では太田のお組が大黒様を重ねて、一戸では西法寺組がお迎え人形を模した恵比寿様を出している。沼宮内では新町組で、大黒・恵比寿・福禄寿が見返しに乗っている。
 表で出す場合は、専用の木彫りの頭を使う。大道具も小道具もこれぞというものを凝って使わないと本物らしく見えない。そのためか、平成に入ってから恵比寿・大黒を山車の表に上げたのは、盛岡の二番組だけである。
 対応する見返しとして、人物を伴わない『宝船(たからぶね)』がある。





(他の地域の七福神の山車)
「七福神の宴」岩手県花巻市

 青森では、ねぶたに毘沙門天がよく出てくる。これは毘沙門天が、四天王のうち北を守る多聞天に当たるからである。木造(現 青森県つがる市)で恵比寿大黒の味のあるねぶたが出たことがあるが、これももともとは、大きな毘沙門天を真ん中に据えた青森ねぶたの脇を飾るものであったらしい。
 下北の田名部祭りには、恵比寿山と大黒山が出る。いずれも作り変えない人形で、引き子が揃いで持っている手拭は大黒山は小判や小槌の柄の入った黄色地、恵比寿山は白地に赤く鯛の絵を染めたものであった。
 弁財天は八戸の山車でよく出る。蕪島神社という弁天様を祭った社の関係であろう。七福神を全て舞台に上げる場合も、必ず弁財天をメインに据える。

 秋田・山形では七福神が山車に上がる例は少ない。宮城では、仙台の青葉祭りの山鉾に恵比寿人形・大黒人形のものがある。岩手県では、二戸祭りで恵比寿大黒、花巻祭りで七福神総揃えの山車をよく見かける。



文責:山屋 賢一

(写真公開)

恵比寿(見返し)   大黒(見返し)   恵比寿(表)   大黒(見返し)   大黒(見返し)   恵比寿(見返し)
(他)恵比寿大黒(二戸)  

本項掲載:※すべて見返し趣向 「大黒天」盛岡市太田/「恵比寿」沼宮内大町/「弁天様」二戸市川又
(他)岩手 花巻まつり「七福神の宴」




山屋賢一 保管資料一覧
提供できる写真 閲覧できる写真 絵紙
大黒さま(表) 盛岡二番組・日詰橋本組

盛岡大工町
盛岡葺手町
日詰橋本組(正雄)

盛岡大工町
盛岡葺手町
大黒さま(裏) 沼宮内新町組
一戸西法寺組
盛岡お組@(本項)A
沼宮内大町組
恵比寿さま(表) 盛岡二番組
盛岡本組
盛岡消友会
盛岡わ組
東北新幹線開通記念
盛岡二番組(圭)

盛岡油町
盛岡本組
盛岡消友会
盛岡わ組(富沢)
恵比寿さま(裏) 石鳥谷中組
沼宮内新町組@A
一戸西法寺組@A
沼宮内大町組@(本項)A
宝船 沼宮内の組
ご希望の方は sutekinaomaturi@outlook.comへ

(音頭 大黒様)


五穀豊穣 祈りを込めて 舞うや大黒 福を呼ぶ
男ぶりより 働きぶりに 惚れて来るのが 福の神
今年は豊年 大黒様よ 小槌
(こづち)片手に 舞い踊る
商売繁盛 ○○様よ 恵比寿大黒 福を呼ぶ
(祝い音頭)
秋の実りを 大黒舞に 踊り出させる 祭り山車


(音頭 恵比寿様)


商家(しょうか)取り引き 海上無事を 祈る事代(ことしろ) 主(ぬし)の神
末の松山 眺めて来たる 祭に輝く えびす顔
(一戸小倉家恵比寿人形宛)
(たけ)る大鯛 笑顔の恵比寿 潮(うしお)しぶきの 躍る灘(なだ)
揚げる大鯛 汐香
(しおか)を乗せて 海幸(うみ・さち)祝う 釣り恵比寿
(えびす)という字も 「大きな弓」と 書けば武道を 守る神
(戦前の音頭)
招福招来 めでたい福を 笑みの恵比寿が 背負い来る
世にも稀なる 大鯛を 占めしはたしか 太平洋
恵比寿大黒 弁財天と 福を招いて 祝う秋
恵比寿のように にこづく人に 酒は正宗
(まさむね) 飲ませたい



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